スポーツのあなぐら

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巨人の上位高卒選手は「使わないから伸びなかった」のか

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今回は先日ツイッターで検証した内容をもう少し具体的に書いてみた。

 

「使えば伸びる」論の現在地

若手選手の起用に関してよく聞く
「若手は使えば伸びる。だから俺が気に入っている若手を何年も我慢して使い続けろ
という主張は、
現在では最初の理由付けだけを「使わないと伸びない」と
少しもっともらしくして主張されることが多い。
そして「気に入った若手が伸びない(伸びなかったのは)使わなかったせい」
と一軍の首脳陣批判に用いられることも多いのだが、
巨人の場合はしばらく上位指名で高卒選手が多かったこと、
その選手たちがほぼ全員伸び悩んだこともあって
高卒至上主義の人たちにとっては格好の標的となっている感がある。

検証タイム

しかし「使わなかったから伸びなかった」は本当なのだろうか。
実際にある書籍でやり玉に挙げられた、
2008~14年に上位指名された選手について検証してみよう。

大田泰示(2008年1位)

「2011年オフの村田修一移籍で潰された」が定説になっているようだが、
これは真っ赤な嘘だ。
大田は2011年の後半から完全にサードから外野へ回っていたので
そもそもポジションがかぶっていない。
一軍起用が少し増えていったのもこの後だが、
競争相手になったのは橋本到(2008年4位)と立岡宗一郎(2008年ソフトバンク2位)。
ずっと選手が固定されていなかったレフトでもう少しスタメンに使っても、
という主張ならわからないでもないが、
同学年の高卒選手2人との争いで首脳陣の信頼を勝ち取れなかったのが
彼が起用されなかった理由である。

しかし「使わなかったから伸びなかった」論の正当化という点では
大田はまだましなほうになる。

宮本武文(2008年2位)

3年目の2011年からは早くも育成契約となり、
4年目に戦力外になった。
事情は分からないが、
二軍での登板自体が2009年に7試合、2011年に9試合あるだけ。
同じ年に入団した齋藤圭佑と笠原将生
2010年に二軍先発ローテに入っているので
使わなかったのではなく故障だろう。
登板したこの2年も結果は出せていなかった。

鬼屋敷正人(2009年2位)

4年目の2013年に小林誠司が外れ1位で指名されたときには
「なぜ若手が育っているのに獲った」などとも言われていたが、
2013年の二軍スタッツを見ると
鬼屋敷と同学年の河野元貴OPS.819*1
鬼屋敷は54試合131打席で.439だった。
捕手は現代では守備重視というか打撃軽視に近いポジションだが、
これでは一軍に抜擢しようがないしどこが育っていたのかもわからない。
その後の鬼屋敷は2015・16年に二軍で.668、.596という数字*2を残すが、
同じ年の小林は一軍スタメン固定で.605、.544。
どう使えと。

宮國椋丞(2010年2位)

2年目の2012年中盤から先発ローテに定着、
日本シリーズでは中村勝とともに7回無失点の好投で翌年以降に期待を持たせた。
しかし2013、14年は先発で結果を残せず(2013年は先発17試合)、
2015年と16年はリリーフで、
不調だった昨年は再び先発にも回った。
昨年までで一軍通算127試合(うち先発44試合)投げた選手だが、
これでも「使わなかったから伸びなかった」と言われるのだろうか。
それとも「悪くても数年間先発ローテに固定し続けろ」ということなのか?

松本竜也(2011年1位)

二軍では登板のなかった2013年以外で32試合、うち25試合に先発した。
通算防御率は4.87で4.50を下回った年はなく、
2014・15年は四球が多い。
この後紹介する同学年の今村信貴に防御率3.50以上の年がないことと比べると、
明らかに伸びが遅かった。
たとえ例の事件が発覚しなくても、
2015~6年には戦力外になっていた可能性が充分考えられる状態と言える。

今村信貴(2011年2位)

二軍では先発ローテに入ってまずまずの内容を続け、
2年目には早くも一軍に呼ばれるようになった。
特に2016年は開幕から先発ローテに入るも、14試合先発で防御率5.59。
結果を残せない中でかなり粘り強く使われ続けた。
そしてそのことを指摘すると、
「巨人も粘り強く使い続けている」に激怒した人から反論が来たことがある。
曰く「いないから使われただけ」だそうだ。
なるほど、我慢強く使われた事実はこうやって記憶から消していくのか。

岡本和真(2014年1位)

プロ入り後はファーストからサードへコンバートされ、
高卒1年目にしてはまずまずの結果を出したことと村田修一の不調もあって
終盤は一軍スタメンにも名を連ねた。
しかし2016・17年は村田が好調だったため出場機会が限られてしまった。
今年は当初レフトからサードに再コンバートする予定だったが、
開幕からファーストのスタメンに定着し、結果を残している。
サードでのポジション争いにしてもマギーよりは
衰えが目立ち始めていたファースト阿部慎之助との争いになりそうだったので、
ファースト起用で結果が出せるならそのほうがいいだろう。
だが、OP戦ではファーストの練習をしていたことで首脳陣が非難されていた。
この時酷評していた人たちには
「俺様の言うとおりに抜擢したから伸びた」と自画自賛する資格などないはずだが、
岡本起用を自分の手柄のように言い出すのは確実と思われる。

和田恋(2013年2位)

ある意味一番問題なのがこの和田。
1年目は主にサードで二軍のスタメンに起用され、
結果は出せなかったが78試合228打席と経験を積んだ。
しかしこの年のドラフトで岡本が指名され、しかもサードへのコンバートが決まる。
岡本指名は特に野手上位主義・高卒至上主義の評論家から賞賛されていたが、
これにより高卒2年目にして和田の居場所がなくなってしまった。
その後二軍ではファーストを中心に外野での起用もされているのだが、
持ち味だったバッティングも伸び悩みが目立っている(二軍最高OPSが2016年の.608)。
今年はせめて打撃で成長のあとを見せないと、
今期限りか育成枠に回る可能性も考えられる。

結論

結論としては、
「使わないから伸びなかった」はほぼ幻想にすぎない。
「使わないから伸びなかった」が当てはまらなくもないのは
大田泰示ぐらいで、
あとは「一軍で使いようがない」選手と
「現実では使われた」選手のどちらかだ。
しかし、「使わないから伸びなかった」を声高に主張する人たちは、
こうした現実が記憶に残らないのが常である*3
さらに和田恋にいたっては、
別な高卒選手の獲得で起用する場所がなくなる事態になった。
ドラフトで「野手を高卒中心にたくさん獲れ」という主張が
こうしたチーム構成を作り出しやすいことの証明でもあるのだが、
彼らは「長い目で粘り強く育成しろ」とこの現実を
どう解釈して両立させているのだろうか。

*1:ただし45試合95打席。翌年は132打席で.462

*2:いずれも100打席前後

*3:しかも「二軍で伸びていない選手を起用しろとは言ってない」と言いながら、自分が気に入った「一軍で使いようがない」選手をごり押ししてくる