今年のドラフト本番はまだしばらく先だが、
ここではプロ野球ドラフトの上位指名の傾向について
見てみることにしよう。
上位指名の定義
その前に
「ドラフト上位指名」の定義について少し解説しておく。
巷ではこの「ドラフト上位指名」の範囲が
「1、2位まで」か「1~3位まで」かで
論争になることがある。
今回は1~3位、特に2位と3位の指名を
「ドラフト上位指名」と定義しているが、
範囲が2008年以降のドラフトに限定されており、
指名順が1巡が一斉入札と抽選、
2巡はウェーバー、3巡が逆ウェーバー順と定められているためだ。
この範囲を2007年以前に広げた場合は、
高校生と大学・社会人の分離式だった2005~07年、
上位2名までを自由競争枠で獲得可能だった2001~04年、
1位と2位までの逆指名が可能で
ドラフト当日は1位と2位の入札が同時の1993~2000年、
ドラフトでの指名数が4人までだった1978~80年など、
各チーム3人目までを上位指名扱いしてしまうと
範囲が広すぎたり
区分が中途半端になってしまったりする時期も多い。
2007年以前のデータも見て
考察する場合には注意が必要である。
野手の上位指名が少ない理由
アマチュア球界のバランス
これまでにも様々な媒体で指摘されていることだが、
日本でのドラフト上位指名の特徴は
投手の比率がかなり高いことだ。

過去18年では1位指名ほど投手が多く、
3巡までくると投手と野手の比率がほぼ互角になる。
野手の中でも大学生は3巡全体で、
社会人は3巡後半に多くなる一方、
高校生野手は2巡後半と3巡前半で指名が増える傾向がある。
なぜ投手指名が上位で固められやすいのか。
これまでは
日本のプロ球団が守りを重視し打力を軽視しているからだ、
という主張が支配的だった。
その思想による部分も多少はあるだろうが、
ここではアメリカとの比較という視点で考えてみよう。
これだけでも大きな理由を少なくとも二つ指摘できる。


一つはアマチュア野球のバランスが全く違うこと。
昨年のアメリカの大学野球と
日本の各アマチュア野球では
アメリカの大学野球のほうが圧倒的に打高。
それどころか
OPSは29カンファレンス中17カンファレンス、
平均得点では全カンファレンスが
史上最多のHR数を記録した2017年の夏甲子園よりも高い。
低反発金属バットと飛ぶボールが使われ
週3~4試合が3.5ヶ月近く続くアメリカと、
シングルイリミネーションで
終盤以外は中何日か空くトーナメントか
春秋各週2~3試合×5週ずつで終わる日本との
違いとも言えるだろう。
細かいデータがなくて測れないが
日本でこれよりも打高な野球があったとしたら
金属バット時代の社会人ぐらいか。
打高投低の環境であれば
かなりの好成績を残す打者もそのぶん増えるものだし、
逆に投高打低だからこそ
突出した結果を残す選手も出てくるかといえば
そうそう出てこないものなのだ。
WBCからも垣間見えるドラフト候補の傾向
他にも考え得る理由のヒントになるのは
今年2026年に
「センターラインが少なすぎる」と批判が多い
WBC代表選考である。

2021~25年のMLB1~5巡と
2008~25年のプロ野球1~3巡で指名された
野手のポジションを比較してみると、
上位指名野手全体でのショート率は
MLBのほうがやや高い程度だが、
1巡指名となると傾向が真逆。
MLBはショートの比率がさらに上がるのに対し、
日本はショートが減り
ファーストとサードが増えるのだ。
高校生のショートはまだそれなりにいるが
大学生の1巡指名は3人、社会人は2人と極端に少なく、
1回目の入札にいたっては
18年間で宗山塁1人しかいない。
ショートは
守備の要であるのはもちろんのこと
それでかなり打てるならなお良く、
チーム事情によって他のポジションへ回しやすい
汎用性も非常に高いポジション。
野手そのものの分母が大きく減っているのに
さらにショートの率が下がるということは、
日本のアマチュア球界に
上位指名がふさわしいと見込まれるショートが
それだけ少ないのか。
あるいは
プロ入り後だけではなくアマチュアの段階から
バッティングに特化した打撃優位のポジションと
守備に特化したセンターラインとの
選別、専門化をしたがるため。
そしてそれらの両立を図るセンターラインの育成を試みると
求められている
打撃、守備(捕手ならリードも)などのレベルに対して
どちらか一方の成長に偏るか
どちらも中途半端で使いづらいレベルにとどまるケースが多いため、
とも考えられる。
この仮定が正しいとすれば
打てるショート、センターラインが少ないのは
むしろ精兵主義の一種という見方も成り立つ。
この表現が適切かはともかく、
センターライン中心の指名を好ましく思わず、
ファーストやレフト等の「専門家」の
ドラフト指名や各日本代表選出を強く望み歓迎する
ファンや識者が結構な数いるのはたしかだ。
上位指名が激減している高校生
ここ最近の上位指名で起こった異変
上位での指名傾向を2008年から5年刻みで見たとき、
16~18年目となるここ3年間で
その指名傾向に異変が起こっている。

高校生の指名が激減しているのだ。
野手が特に顕著だが、
投手のほうも
最近上位で高校生投手を乱獲しているバファローズが
約1/3を占めており、
4巡以下の支配下では投手と野手の比重が逆転する。
代わりに増えたのが大学生で
こちらは投打とも似た割合で増加している。

2~3巡が全体13~18、31~36番目の下位チームと
全体19~30番目となる上位チームで比べると
変化がより鮮明になり、
これまで高校生を指名することが多かった
Aクラスの2~3巡で大きく減っているのがわかる。
こちらのAクラスの高校生投手指名では
1~3巡の12人中5人、2・3巡8人中4人がバファローズだ。
考えられる理由はいくつかあり
様々な要因が複合して起こっている現象なのは
間違いないと思うが、
真っ先に考えられるのは
何が何でも高校生に狙いを絞る上位指名に
メリットが少ないことだろう。
プロ入りから早い年数で
一軍戦力になる高卒選手は決して少なくないが、
それらの選手を計算に入れても
成功する確率、一軍戦力になるまでの年数、
大成した際の各年の貢献度と想定される在籍年数などで
総合的に見ると
大卒や社会人のほうが期待値が高い、
将来を見据えて高校生の上位指名を続けたはずの
各Aクラスチームの世代交代も実際にうまくいっていない、
ということになるものと思われる。
もっとも言い換えれば
それでも上位指名される高卒選手には
たとえ早々にMLBや他球団へ移籍されたとしても
その順位に見合う期待値があると見なされていることになるが。

また過去5年間のMLBのドラフトだと
高校生の指名・契約率は1巡目ほど高くなるのだが、
この理由は
MLBが上位で10年先の将来を見越してるからではなく、
大学で野球や他のスポーツをプレーするなど
高校生のほうが
即MLBと契約する以外の進路が豊富なためと考えられる。
一方日本では
このMLBで高校生を上位指名する条件が
常に即戦力を必要としている
社会人という選択肢がある大学生に当てはまる。
指名する側とされる側、双方の思惑が絡んだ結果が
ここ最近の高校生上位指名減少の
大きな要因と思われる。
上位での高校生指名にメリットはあるのか
ただし上位指名で高校生を何人も獲ること自体に
全くメリットがないかといえば
そういうわけでもない。
あまり良い書き方とは言えないかもしれないが、
契約金と年俸を安く抑えられる点。
中でも高校生と大学生・社会人との差額が大きいのが
2~4巡なのだ。

1位で競合するような選手は
高校生でも限度額いっぱいか
少なくとも契約金が1億支払われるケースも多い一方、
現在の2巡以降はそこまで高い金額になっていない。
やはり成功率や本格的に戦力となるまでの期間に
大きな違いが出やすいからだろう。

実際に2019年以降の金額を見ると、
近年高校生の上位指名が極端に増えているバファローズは
指名された人数に対して
ドラフトでの契約金・年俸の総額がやや抑え気味。
7年間で1億~2億5000万程度の差になっている。
数年単位ではそれなりの金額とも言えるし、
バファローズの場合は
FAなどの戦力補強にも活用していると思われるので
ただの経費削減とは異なる戦略と見るべきだろう。
チーム別の傾向
千葉ロッテマリーンズ

2位と3位で投手指名がかなり多く見えるものの、
1位は投手と野手がちょうど半々で
投手3人は2016年と25年だけ。
2巡はほとんどの年で大学生と社会人を指名しているが
3巡まででは大半が高校生1、大卒・社会人2。
上位はわりと決まったバランスでの指名が多かったが、
昨年はどちらのパターンも少し崩してきた。
北海道日本ハムファイターズ

今も高校生野手の上位指名と育成で
かなりの定評があるファイターズだが、
上位指名での高卒野手偏重は今から10年以上前の話で
近年の上位野手指名は大学生が主体。
野手が高卒偏重の時代は
上位指名の高卒勢が主力に成長したにもかかわらず
チームのほうは暗黒期に突入し、
ここ2年は最近獲得した上位の大卒勢の成長がいまいちながら
暗黒期を脱して再び優勝争いにも顔を出すという
なかなか複雑な構図になっている。
埼玉西武ライオンズ

2019年までは
1、2位が投手偏重で3位が野手中心だったが
2020年以降は3巡全てで野手指名が多くなっている。
2017年以降は
上位野手の成功率も成長スピードもやや遅くなっているものの
むしろそれまで大成しすぎ、成長速度も速すぎだったのが
平均的なラインに戻ったと見るべきか。
投手の成長が山賊打線の頃とあまり変わっていないため
攻守における野手の成長が
今もチーム浮沈のカギになっている。
東北楽天ゴールデンイーグルス

統一ドラフトになってからしばらくは
上位、それも2位までに高校生を獲らない年が少なく、
8年連続で高校生を1位入札した時期もあったが、
ここ6年間は
大学生と社会人で固める年が急増している。
特に2巡と3巡で獲得した高卒勢の結果が芳しくなく
昨年台頭した黒川の1年間が
楽天在籍時の高卒勢実績上位に入るのではないかという程度なので、
戦力不足に苦しみ続けるチームとしては
こういう指名が続くのも仕方のないところだろう。
4位か3位ばかりなため
Bクラスチームに獲られやすい大学生と社会人の有力候補が
辛うじて残っている順番での指名が多いのも一因か。
オリックスバファローズ

近年は高校生中心の上位指名になっているが、
チームが2位だった2008年と14年も高校生が多く
Bクラスだった2024年は
少し前までの傾向と似た指名になっているため、
狙って高校生を獲りに行ったのではなく
大社候補よりも評価の高かった高校生が
ちょうど2巡後半に残っていただけの可能性もある。
現状だと
宮城と紅林の成果が出るのが早すぎただけで、
他は高校生主体ならさすがにこのぐらいかという程度。
年齢的にも勝負どころはあと3年以上先となるだろう。
福岡ソフトバンクホークス

2010年前後と2015年前後は
上位の大半が高校生で固められていたが、
優勝や日本一の年でも徐々に大学生の指名が増え、
ここ4年間の2位と3位は全て大学生と社会人。
特に大学生野手の上位指名が増えているのが特徴で、
野手の世代交代に苦労している様子がうかがえる。
ホークスの場合は
その野手を3位までに獲得しなかったのが
18年間で2013年の一度しかない。
佐々木の交渉結果次第ではもう一回増えるが。
読売ジャイアンツ

ジャイアンツの上位指名はわりとシンプル。
戦力補強が外国人やFAだけでは追いつかない場合は
大学生と社会人主体になり、
補強が何とかなりそうだったり
育成を標榜していたりする場合は高校生中心になる。
なのでFAへ積極的に参戦する時期ほど
ドラフトでは高校生を重視することも多く、
一口に大卒・社会人と言っても
故障・手術明けや高卒3年目など
即戦力より素材の将来性をかなり重視した
高校生中心の亜種のような上位指名もしばしば見られる。
東京ヤクルトスワローズ

上位指名は1~3巡のどれも大半が投手。
数少ない野手の成功率も
さほど高いようには見えないのだが、
これで得点がリーグ4位以下だった年が
18年中4回しかないのは
本拠地の特性があるといってもちょっと驚きである。
2巡は
チームがAクラスの年の4回連続で野手、
Bクラスの年は6回連続で投手を指名していたが、
世代交代の遅れが目立ってきたためか
ここ2年はBクラスでも野手を獲得している。
横浜DeNAベイスターズ

3巡までが全て投手という年が18年で一度もなく
必ずどこかで野手を獲る上位指名になっている。
2巡は大学生と社会人の投手がほとんどだが
戦力になる確率がいまいち。
逆に3巡は野手のターン。
プロ入り後ショートに回っている林も含めると
3巡だけで8人のショートを獲得している。
中日ドラゴンズ

2巡が主に投手で3巡は野手、
1~3巡が全て投手なのは2025年だけという上位指名。
あれだけ貧打に苦しみ続けているのに
ずいぶん悠長だった印象を受けるだろうが、
3巡指名の野手だけじゃなく
2巡指名も戦力になった投手がかなり少ない。
攻守ともに常に戦力不足だったことが
よくわかる上位指名になっている。
阪神タイガース

現在の主力野手にも
高卒がほとんどいないのは広く知られているが、
これは中谷や北條の活躍が短期間にとどまったのとともに
高卒野手の1位抽選を4回外しているのも大きい。
とはいえ彼らの抽選を外した後に獲得した野手が
打線の主力になっているのだから文句をつける必要もあるまい。
投手の上位指名は
高校生だけじゃなく大卒・社会人でも
かなり素材を重視した指名を最低1人入れてくることが多く、
そのどちらもさほどうまくはいっていなかった。
ここ4年間で獲得した投手たちが
才木、高橋、及川に続けるか。
広島東洋カープ

2016年からのリーグ3連覇では
高い得点力を武器にしたチーム構成、
対して現在は打力がかなり苦しい状況になっているものの、
野手の上位指名が多くないのは
2015年以前も今も変わっていない。
ただ2巡と3巡で獲得した野手の成長に大きな差があり
現在の苦境につながっている。
即戦力投手ばかり上位で獲ってるのに全然戦力になってないと
思ってるカープファンが多いかもしれないが、
こちらも2015年以前とは大差ない状況だ。