スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

高校生投手の当たり年を考える

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ニコニコのブロマガを再構成した。
前回の野手編に続いて今回は投手編。

 

大当たり年

1993年

主な選手:岡島秀樹平井正史小野晋吾吉武真太郎大家友和
逆指名が導入されたこの年は高校生投手もかなりの大当たり年だった。
もっとも、小野以外はリリーフでの活躍が目立ち、小野も台頭は7年目と遅め。
他にも早くに出てはきたがその後30歳近くまで低迷した平井、吉武に
日本では目が出ずアメリカで開花した大家が入っているため、
改めて見ると高卒での獲得が有効だったかどうかは疑問符のつく選手も多い。

1994年

主な選手:金村秀雄福盛和男山村宏樹嘉勢敏弘
この年は野手転向を除くと高卒投手はわずか8人しか指名されておらず、
成功率という点では群を抜いて高い年になっている。
他の年の指名数さえ隠せば
「高校生の成功率は高い」論をぶち上げたい人にとって
格好の材料になるかもしれない。
またこの年も、いろいろあって時間のかかった山村や
7年目のほぼ1年のみだった嘉勢など、
やはり高卒での獲得が有効だったと言える選手は少ない*1

2001年

主な選手:寺原隼人大竹寛高橋聡文林昌範
逆指名から自由枠に変わったこの年。
4球団競合の寺原隼人は時間がかかったが移籍後に本格的に開花。
1巡の大竹はチーム事情もあって早いうちにエースとしての地位を確立し、
高橋、林は左のリリーフ主体で貴重な戦力となった。
逆指名と高校生抽選が両立しないはずだったが、
寺原を抽選で引き当てたホークスは3巡で事実上の逆指名をさせる荒業も見せた。

大当たり年次点

2013年

主な選手:松井裕樹、田口麗斗、二木康太、砂田毅樹
2005年以降は毎年エース格の選手が出て大外れにはならないが、
何年も活躍する投手の総数が多くなく大当たりにもできない年が続く。
その中で今のところ大当たりに近いのはこの年。
まだ今年で5年目だがそこそこの活躍を数年続けている投手がそろっている。
あとは今年前半不調だった上記の選手たちが
後半から来年以降どの程度復活するか。
ここに載せていないまだ現役の5人のさらなる成長も注目していきたい。
本音を言うと「6年目以降の台頭」の時点でちょっと遅いのだが。

大外れ年

1989年

主な選手:岩本勉、柏田貴史、田之上慶三郎
89年は開幕投手を何度も務めた岩本以外が悲惨な状況。
岩本の台頭が5~6年目にかけて、
柏田の開花はMLB留学の後のプロ入り10年目で、
田之上も便利屋的な使われ方をした時期があるとはいえ、
一軍初登板が7年目、規定投球回は12年目になってからのことだった。
本来なら人数、質とも大外れとはしづらいのだが、
このころはまだ高校生の指名人数が非常に多いのもあって、
成長までの期間と成功率の両面から外れ年とした。
なお柏田と田之上はドラフト外入団である。

1990年

主な選手:山崎一玄山崎健
続く90年も前年に引き続き大外れ。
一軍でそれなりに働けたのは上の2人にとどまったが、
それ以上に25人が入団してこの確率というのがあまりにさびしすぎる。

2000年

主な選手:坂元弥太郎
1位に中里篤史や横松寿一がおり、
評論家とマニアには坂元や根市寛貴、玉山健太らが大人気だった年。
しかしそれなりに出られたのは坂元1人で、
その坂元もリリーフ主体で防御率4点台中盤。
内海哲也の拒否などがあったとはいえ、
評論家とマニアがフィーバーしている中で、
全体で12人の入団にとどめたプロのスカウト・フロントの目は冷静かつ正しかった。

2002年

主な選手:高井雄平
松坂世代」大学生の解禁年だが、高校生の上位指名も9人と意外に多かった。
しかし野手の当たり選手は西岡剛坂口智隆吉村裕基などがいるが、
投手は2球団競合の高井以外失敗となってしまった。
しかも高井はリリーフ主体かつ防御率約5点という内容にとどまり、
どう見てもここ数年の野手実績のほうが高い。
事実上成功者0の年となってしまっている。

余談の年

2004年

主な選手:涌井秀章ダルビッシュ有東野峻
最後に、当たりでも外れでもないがこの年を挙げておこう。
1巡指名の涌井とダルビッシュが即戦力に近い早さで大活躍を見せ、
7巡の東野も時期は短いがローテ投手として働いた。
高卒投手は質の高い年と言える。
この年はどういうわけか、
自由枠1枠以下のチームもほとんどが2・3巡で大学・社会人を指名したため、
上位指名の高校生はたったの5人。
指名数が抑えられた結果、上位成功率が数字の上では40%に達したため、
高卒至上主義の評論家がこれを引き合いに出し、
「高卒は成功率も高い」とぶち上げたことがあった。
数字の扱いが出来ずにバイアスだけが先行するとこうなる、
といういい見本になっている。
実際には全体で15人(中卒の辻本賢人含)が指名。
他には1年だけリリーフで奮闘した木村正太や長らくプロで期待された玉置隆
名前も挙がるが、彼らは当たり選手とは言えない。
全体の成功率は良くも悪くもない、といったところだろう。

投手の成功者を見る際の注意点

投手を見る際に一つ難しかったのが、
2011・12年の存在。
ストライクゾーンが大きく変化した2002年もそういうきらいがあったが、
何らかのルール変更等で突然訪れる投高打低の年というのは、
高卒に限らず素材型投手が
一気に開花する「ように見える」年でもあるのだ。
しかしこういう選手の大半は、
リーグのバランスが少し打高になるとすぐに崩れてしまう。
とにかく高卒投手が速球を投げ込んで打者を抑え込むさまを見たいという人は、
再びNPBが極端な投高打低になるような改変を求めるといいと思う。
そうした意味では、
2011・12年ほどではないが一昔前よりは投高打低になっている昨今も、
以前に比べれば高卒投手が成功しやすい状況と言えるかもしれない。

「大当たり年」の顕著な違い

前回の野手編から今回の投手編を見て、
かなり疑問を抱いた人も少なくないと思う。
野手の当たり年は主力が6~8人出ないと当たりになっていないのに、
投手はなぜ4人でも当たり年になっているんだ?

もう言うまでもないだろうが、
高卒選手の場合、投手よりも野手のほうが主力になる人数が多いからだ。
理由として考えられるのは、
投手のほうがプロのレベルに育ちづらい選手の指名が多いこと、
野手は代打・守備・走塁などの控えでも出番があること、
そして何よりも、
投手に比べて野手はプロ入りした後の猶予期間が単純に長いことだ。
投手は成長が遅いと、他の選手の消耗も激しい分
70人枠を圧迫することになるが、
野手は少し成長が遅くても
主力選手が投手よりは長い期間活躍しやすい。
全体の高卒野手と投手の指名数はさほど変わらないのだが、
結果として高卒野手は、高卒投手よりも成功者数、成功率とも
高めになっている。

そうした側面もあってか、
「長い目で見て粘り強く育成しろ」と
一部の人たちからプロ球団が叩かれている高卒野手は、
プロ球団も実際に長い目で見て粘り強く育成している。
しかし逆に考えれば、
「野手は育成に時間がかかるが育てば長く使える」という名目で
野手の大量指名を主張している人たちのほうが、
「野手の育成を軽視」しているし、
「せっかく育てた野手を長く使う気」もない*2
とも言えるだろう。

*1:ただし嘉勢は事実上二刀流に近い選手だった

*2:こういう人たちは22歳未満の若手偏重志向が強いので、
25歳を超えてこれから全盛期を迎え始める選手などには興味がなくなるのかもしれない