①野手育成にまつわる俗説への反証
②上位指名で投手を指名する意味
③順当にいけば1位入札は一番人気の投手か

ドラフトの「補強ポイント」について

ドラフトにおける「補強ポイント」。
実のところドラフト評論において、
「補強ポイント」の定義は人によってまちまちだ。

来年の一軍戦力を強化するための方針
5年先、10年先の未来を想定した戦力拡大のための方針

一般的にはこのどちらかで用いられ、
FAや新外国人選手、現役ドラフトの場合が前者。
新人選択のドラフトで使われる場合だと、
評論家が非常に高く評価しているアマチュア選手を
1年目から一軍で使わせたいとき以外は
後者をうたい文句にしていることが多いが、
あえて前者の意味で解釈したうえで
自らが高く評価しているタイプの選手を獲らせるために
「補強ポイント」を無価値なものとして
広めようとすることもある。
特に多いのが
高校生のドラフト候補や、
ファースト、レフトにポジションが集中しがちな
体が大きく、打球の飛距離があり滞空時間が長い
「真のスラッガー」を大量に獲得させたい場合だ。

この記事では概ね
3～7年後のチーム構成を想定したものを
「補強ポイント」と位置付けている。
また一般的には
「1年目に一軍戦力として使われる」とされる
「即戦力」の定義もいささか異なり、
1～3年目にかけて一軍戦力として成長しそうな選手のことを
「即戦力」ないし「準即戦力」と記述している。
なお10年先のことは考えない。
現在の日本では
早くに若くして一軍で活躍する選手であればあるほど、
「10年先を見たドラフトと起用をしろ」と言う人たちの
主張通りの指名と起用を行えば行うほど、
獲得した選手が
10年後のチームにいない可能性が高くなるからである。

戦力・ドラフト傾向分析

過去10年の成績

M10年順位

優勝はないものの
CS進出は半分の5回。
強さを保ててはいないが
Bクラスからすぐに脱出できる
リカバリー力も持っている。

M10年順位2

5割強で3位以内に入るシーズンと
大負けするシーズンに分かれることが多く、
ほとんどの年で
予想勝率以上に勝ちを拾えているため
グラフにすると
あたかも暗黒期にいるかのように見える。
得点力と失点を抑える力、
両方とも高いシーズンは
ここ10年ではない。

2024年の成績

M順位

M時期別順位

序盤は
少ない得点を投手陣が守り抜く展開、
交流戦からは
崩れた投手陣を打線がカバーする内容で
序盤に作った貯金を守り切り
3位に入った。

過去15年のドラフト傾向

M15年1位指名

単独指名は少なく
一番人気への特攻が基本になっている。
1位抽選の勝率以上に
外れ1位抽選が過去7勝0敗と驚異的に強かったが
昨年はここでも2連敗した。

M15年上位指名

2位と3位では
大学生と社会人の指名が多く、
3位までで
高校生と大社を1：2、
野手と投手も1：2という年が多い。
指名されたのはほぼセンターラインだ。

M15年指名数

支配下の指名数は
育成選手を大量指名するホークスに次いで少ない。
2016年ごろまでは
尖った指名もしばしば見せていたが、
ここ最近は
4巡と5巡でもかなりバランスを重視した指名に
なっているようだ。

M15年主な戦力

指名数は少ないが
戦力の数は他のチームと何ら違いが見られない。
野手のほうは
バッティングが伸び悩む選手と
ベンチ要員も多いので、
チーム全体の打力向上には
さほど結びついていないのが弱点か。
たびたび上位で指名したショートは
大学時代の大半がサードで
指名された年以外あまりショートに入っていなかった
鈴木大と藤岡裕*1が一軍スタメンに定着し、
ショート専任だった選手が伸び悩んでいた。
友杉がこのジンクスを崩せるか。

野手補強ポイント

野手についての基本的な考え方

基本的な前提条件は

若手は全盛期（年代表オレンジ）に向かって少しずつ成長する
全盛期の選手は同じぐらいの成績で推移するかゆるやかに衰える
全盛期を過ぎた選手は成績がいつ大幅に下降してもおかしくない

この前提条件を踏まえつつ
現在の若手・中堅の具体的な成長速度と
ベテランの衰えかたなどから
数年先の各一軍ポジションに入る選手を推測し、
補強ポイントを見定めることになる。
その一方で
今年のプロを志望するドラフト候補の中に
ポイントに該当しつつ実力も高い選手が少ない、
他のチームとの兼ね合いで
欲しい選手を予定している順位では獲れそうにない、
などといった場合には
補強ポイントを翌年以降に持ち越すこともよくある。
一回のドラフトで
補強ポイントを全て埋めきる、
投手・捕手・内野・外野のポジションを均等に獲得する、
といったことにこだわる必要はない。
またこの記事では
打席の左右についてもこだわらないことにしている。
右打者と左打者とのバランスよりも
一軍の空いたポジションで戦力になることのほうが大事。

過去10年の打撃成績

M10年打撃成績

ここ数年間は打率が低い反面
出塁率が安定して高く、
打率に対して出塁率が低めだった
2017年以前とは逆になっている。

2024年野手陣の状況

M打撃成績

本塁打数が二極化した今年のパリーグにあっては
HRが少ない側であった一方、
二塁打はリーグ2位で四球もリーグ2位。
ここが今年得点を伸ばすポイントになっていた。

MF1

MF2

もっとも今年活躍したのは30代の選手が多く、
高部と藤原の台頭があった一方で
安田、友杉、山口など
今まで一軍経験を積んできた若手の苦戦も目立った。
別なチームのファンが
少し前に「一軍300打席論」を唱え支持を集めたことがあったが、
安田は今年で通算2000打席に到達し
山口も昨年の時点で1000打席、
ここ6年ずっと苦戦している平沢は3年目で500打席超。
昨年までの安田はそれなりの結果を出してはいたが、
そうそううまくいかないものである。

M若手F1

M若手F2

山本はまだまだ粗削りなところがあるものの
外野枠に空きが出れば一軍の出番は増えそうだ。
キャッチャーは
松川のバッティングが今年も伸び悩む一方で
ルーキーの寺地が好成績。
守備、リード中心の起用になりがちなポジションではあるが
2年目も順調に成長すると
楽しみな存在になってくる。
二軍のショートは松石が中心だった。

補強ポイント

補強ポイントになるのはショートとセンター。
ショートは藤岡のコンバートで
一軍も二軍も若手中心の編成になっていて
どの選手もバッティングに難がある。
またこのショートは
次世代候補がまだ池田1人になっている
セカンドの後継候補も兼ねたいので
大学生か社会人のショートを
バッティング重視で指名したい。
高校生を獲る場合は
金田、勝又、松石の今後数年の二軍出場機会を
大幅に減らす覚悟がいる。
センターは
山本との年齢差がある高校生でいい。
またこちらも
打力に重点を置いた指名をしておきたいところだ。

投手補強ポイント

投手についての基本的な考え方

野手と比べて
投手は年齢による成長・衰えのばらつきが激しく、
故障や不調などからくる戦力外も早い。
さらに近年は
個々のイニング、登板数を抑える代わりに
投手の調子を見極めた一・二軍の入れ替えが激しく、
一軍である程度使われる主力の数そのものは激増している。
そのため
一部のドラフト評論などでも主張される

二軍以下で将来を見越して何年間も育成し続ける
より力のある選手を差し置いてでも、若い投手をただ一軍で使い続ける

このような手法は
以前にもましてとりづらいばかりか、
二軍の若手を早々に長期離脱させ成長自体を遅らせる
大きな要因にすらなっている。
そのため

一軍で起用可能な投手、二軍で鍛え続けられる選手の絶対数を増やす
今年台頭した若手が来年以降も活躍し続けることをあてにしない
目の前の年齢（特に18歳）と将来性に特化した指名を繰り返さない

これらがどのチームでも最重要課題になる。
投手の場合は
来年の一軍戦力や
一軍・二軍以下を合わせたイニング数確保などを
優先的に考えることのほうが、
「5年先・10年先を見据えた指名」よりも
5年後の将来の結果につながることが
往々にしてよくあるのだ。

過去10年の投手成績

M10年投手成績

四球をあまり出さず
三振率も改善されつつあるが、
ホームランラグーン設置後は
被HRが安定して悪い。
最近の失点が多いのはこの長打と守備も影響しているか。

2024年投手陣の状況

M投手成績

三振は多く
四死球もあまり出しているわけではないのだが
失点はリーグ5位。
チャンスでやたらと打たれてしまっていたか、
二塁打、三塁打をかなり打たれていたか。

MP1

MP2

種市、佐々木に
鈴木、横山の成長があったものの、
今年も
少ない戦力でを何とかやりくりする一年。
敵味方のファンから評価の低い益田だが
1年間のトータルで見ると
そこそこ安定感のある存在であった。

M若手P1

M若手P2

若手では
2年目も成績を伸ばした田中晴也が
今年のトッププロスペクト。
中森は今年はやや停滞気味。
昨年2位指名の大谷は
途中から先発に回っての育成となった。

補強ポイント

もう何年も引き留めている佐々木は
「いついなくなってもいい」ぐらいの感覚で
ドラフト指名をする必要があるマリーンズだが、
そのわりに悠長な指名をすることが多い。
下位の高校生に関しては
かなり自信を持っているとしても、
大学生や社会人などに対しても
上位から中位指名の高校生に対しても
この育成力はあまり発揮できていない。
特に高校生投手の指名順逆転現象は
他のチームでも最近よく見られるが、
今後一軍に必要な戦力を確保するには
高校生よりは確率の高い大学生、社会人を
上位、中位で獲得し育て続けることが重要になる。
上位の高校生は今まで通り
そんな大社投手のはるか上を行く逸材に絞っておきたい。
また毎年書いているが、
左のリリーフは
ドラフトのリリーフ左腕狙いの指名をしていないので
今年もやはり指名する可能性は低い。