このブログでは
日本ハムが「弱体化した本当の原因」の是非と
野手陣が「弱体化」した理由について
考察した。
今回は
4月終了時点で
失点数がリーグワーストを記録している
投手の「弱体化」の原因について考えてみたい。
「投手王国」の崩壊
2006年から2016年までは
「投手王国」のイメージが強かったファイターズ。
2000年代後半はずっと失点がリーグトップ、
2007年にはNPB史上初の
得点数リーグワーストでのリーグ優勝も達成した。
2011年以降は
失点数がリーグトップなのは2016年だけだが
ダルビッシュ有や大谷翔平と
若いスーパーエースの存在もあって
「投手王国」のイメージは保たれ続けていた。
それがここ最近は失点が増え
呼応するようにチーム成績も低迷している。
日本ハムの投手指名戦略
前回書いたように
主力選手の早期流出を前提としている
ファイターズのドラフト基本戦略は
即戦力重視である。
野手はしばらく高卒偏重だったのでこの戦略がわかりづらかったが
投手はかなりわかりやすい結果になっている。
高投 | 高野 | 大投 | 大野 | 社投 | 社野 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
2008~14 | 7 | 17 | 9 | 4 | 11 | 1 | 49 |
2015~20支配下 | 7 | 11 | 10 | 7 | 7 | 1 | 43 |
2015~20全体 | 8 | 11 | 11 | 8 | 8 | 3 | 49 |
1位入札だと高校生を獲りに行くが
統一ドラフトの2位では2003年の須永英輝以来
高卒投手の指名がない。
3位以下でもやはり指名は少なく
特に野手の高校生偏重が顕著だった2010~14年は
高校生投手を5年間で4人しか獲っていなかった。
ソフトバンク以外のパリーグは
セリーグに比べて
あまり高校生投手を獲らないのだが、
日本ハムは野手のほうで高卒が目立つぶん
その対比が際立っている。
その一方で
高卒投手が戦力になるときの一軍定着も早く、
6位指名の上沢直之と4位の石川直也は
どちらも3年目に一軍戦力となっている。
分母が少ないため
高卒投手をほとんど獲得しなかった時期の成功率は
かなり高いのだが、
逆に分離ドラフトの3年間では
8人の高卒投手を獲得したものの
一軍戦力になったのは吉川光夫一人だけ。
その吉川も1年目にそこそこ使われた後
6年目まで4年間戦力にならず、
高卒投手を多く獲得するメリットを得られなかった。
高校生の場合は
これらの経験も踏まえて
大半のチームで育てられそうな選手、
日本ハムでなら育てられそうな選手を
少数精鋭で指名している形だ。
じゃあ数多く獲得している
大卒・社会人のスカウティング・育成がうまいかというと
あまりうまいとは言えない。
2位・3位だと
知名度と評論家の評価も高い選手を獲りに行くことが多いのだが
なぜか一度大成しても短命に終わる選手が目立ち、
2位指名投手では
スタミナ面などの不安要素は強いものの
ドラフト時はチームの不調もあって巷での評価を落としていた加藤*1が
今のところ最もいい結果を残しているのがちょっと皮肉だ。
また
実績も知名度も乏しくかなりの成長を前提とした指名や
20代後半の高齢選手の指名、
生田目翼などのような
知名度は高いが即戦力か将来の素材か評価が分かれるタイプの指名も
しばしば見られるが、
どれも結果にはあまり結びついていない。
「投手王国」が「崩壊」したのか
失点と投手成績とのずれ
ここまでドラフトを検証してきたのだが、
日本ハムの場合
本当はもう一つ重大な疑問点がある。
そもそもファイターズは本当に「投手王国」だったのだろうか。
この疑問が出る理由がこれ。
ファイターズは失点が少ない反面、
FIPはあまり良くない時期が長かった。
右に載せた細かい内訳を見ると
まず三振が常に少ない。
かなり広い札幌ドームを本拠地としながらも
被HR数は意外とむらが激しく、
与四球も時期によってかなりの落差がある。
ダルビッシュや大谷のように
こうした数字も非常に優秀なエース格がいても
この傾向は変わらなかったのだ。
そしてチーム全体の奪三振数を考慮すると、
ファイターズは「投手王国」ではなく「守備王国」だった
という推察が可能になる。
エースに加えて
ほぼ毎年一軍で結果を残せる投手は何人かいるが、
それ以外は
その年ごとに調子が良い選手が
打たせて取るピッチングでしのぎ
これを野手の守備力でカバーする戦略である。
逆転現象の理由
それがここ2、3年は
逆にFIPがパリーグトップを記録する代わりに失点が多い
結果になっている。
K-BBも同程度の順位なので
HRが出づらい札幌ドームのPFだけの問題でもない。
投手以外の要素が介在しづらいスタッツが優秀なのに
失点が多くなる理由は何だろうか。
ざっと考えられるのは次の三点。
- 野手の守備力がどこもかなり悪い
- 投手陣はFIPの三要素だと優秀だが守備力でカバーできないほどヒット・長打を打たれやすい
- 投手陣の打球傾向と守備力とがかみ合っていない
最初の項目は
チーム全体では2000年代後半より悪化している可能性が高いものの
ライトの大田泰示やショートの中島卓也*2は
まずまずの結果を出していたし
2018年時点では
西川遥輝、近藤健介、レアードなども悪くなかったはずなので、
少なくともこの点だけを原因とするのは無理がある。
二番目と三番目の両方が正解に近いと言えそうだ。
ただ投手成績を見る限りだと
他のチーム以上に野手の守備力に大きな比重が置かれていたのは
間違いないと思われる。
つまり投手の弱体化に関しては
前回挙げた野手の問題点も重大なポイントになってくる。
やはり「わかりきっている」が間違っている「問題点」
現在のファイターズが
投手に関連する内容で批判される場合の
主な内容をあげるとこうなる。
- 優秀な投手コーチを放出するから弱くなった
- オープナーのせいで弱くなった
- 野手は高校生を獲るのに投手は即戦力中心だから弱くなった
三番目は今の時点だと主張する人の数は少ないが
主張する評論家がドラフトの権威とされるため
影響力が強いうえに
ここ最近評価が大きく下がっているフロントへの批判にもなるので
共感する人が増えてくる可能性がある。
特に吉田輝星が大成したら
その成功体験につられる人は激増するだろう。
しかし高卒投手の指名数をただ増やしたところで
高卒のスーパーエースが何人も誕生する可能性はほぼない。
これは序盤に指摘した
分離ドラフト時代の結果から証明済みだ。
1位入札の大物高校生投手が獲得できないのも
ただのくじ運の問題*3だから
ファイターズには何の落ち度もない。
一番目は定説のように言われ
こうした点には触れなかった
西尾典文氏なども批判の対象になっていたが
これも因果関係は見えてこない。
また
佐藤義則、吉井理人コーチの退団時期と
投手陣の悪化との間にブランクが生じる可能性もあり、
そのブランクの間に投手陣の代替わりが進むことも多いので
そもそも因果関係をつかむこと自体
どうやっても困難な部分もある。
だから正確には
この説は完全に肯定も否定もすることができないのだが、
「この説が絶対に正しい」と断言するのは
ただの感情論とみて間違いない。
そしてもう一つの二番目はどう考えてもでたらめだ。
オープナーを試したから投手陣が弱体化したのではなく
守備を含めた失点の増加が目に見えていたので
その打開を模索するために
オープナーが導入されているからである。
MLBで一定の成果をあげているオープナーとの相違や
起用に合わせた投手の調整法や精神的部分の面などで
問題があったかもしれないが、
「弱体化はオープナーのせい」にするには
単純に順序が逆になっている。
こちらも前の二つ同様に感情論の域を出ていないのだ。
2023年に照準を合わせている
ファイターズの現在の投手育成戦略を
現時点で評価するのは非常に難しい。
今までが
野手との関連を見ないと見えてこない戦略だったので
投手陣の将来像も
現在作ろうとしている野手陣の構成とセットで
考えないとならず、
また新球場の正確な構造が見えていない。
直線状の外野スタンドや
ファウルグラウンドの狭さ等を考えると
今までに比べてかなりの打高投低になり
外野両翼守備の比重は下がるとは思われるが、
代わりに増えそうな被HRはどうやって抑えるか。
総天然芝で比重が上がりそうな内野守備との兼ね合いはどうなるか。
守備力の減退は打力でカバーできるのか。
投手は野手よりも
直前のドラフト補強の重要さが増すので
今年・来年のドラフトまで見ていかないと
戦略の方向性を見出すことはできない。
ましてや
巷でやたらと取りざたされる
斎藤の残留云々などは
些末な内容でしかないのだ。