ドラフトで高校生を上位指名させるには
高校生のドラフト指名率
最近、
ドラフトで高校生の指名が減っていることを
嘆く声がしばしば見られる。

過去61年のドラフト、ドラフト外で
NPB球団と契約した選手の高校生の割合を見てみると、
高卒率のトップ10は
拒否もかなり多かったドラフト草創期に70年代後半、
甲子園最盛期でもあった80年代中盤の
概ね三つの時期に集中している一方、
ワースト10はほとんどが2000年代以降。
支配下指名では
2022~25年が4年連続でワースト10入りしており、
昨年2025年は育成指名でも比率が少なく
ともに史上初の20%台*1を記録した。
また過去5年間の上位指名では
2巡まで、3巡までどちらの場合も30%を超えたのが2022年だけ。
上位指名も安定して減少する傾向にある。
これが80年代中盤や傾向や逆指名制度への反発を
自分のドラフトの好みに反映させた「ドラフトの鉄則」のままの
外部有識者の反発だけならどうということはないが、
この記事などにあるように
最初から育成指名を打診するしかなく
選手の決断やプロスカウトの活動に大きな影響を及ぼすとなると、
問題とも言えるだろう。
ただ高校生のドラフト指名をうながす方法が
「主力になるのは高卒。大卒や社会人出身は脇役」
「今回のWBC日本代表に高卒が多い」など
観念論や自分の嗜好の強要に終始するのはもっと問題だ。
WBC代表にいたっては今回も前回も
「センターラインが少ない」「中継ぎ専任が全然いない」と
あれほど叩いたその口で高卒率を賛美するのだから、
この点でも自己都合な矛盾点だらけである。
その前に各球団がこのような戦略をとる
現実的な理由に着目せねばならない。
高校生の指名を慎重にさせる現実
見なければならない現実は何か。
現在のプロ野球は
育成選手制度ができた2005年に比べて
一軍で起用される選手の総数が激増しているのだ。

コロナ禍で特殊環境にあった2020、21年を除いた数字を見ると
2005年と25年では一軍起用された選手が
1チームあたり10人以上増えた。
6.6人増えた投手はもちろん野手も4人多くなっている。
これは逆に言うと、
一軍に出場しない支配下登録選手の最大枠数が
平均20人から9人まで減っているということでもある。
通常一軍レベルはおろか
二軍のレベルに到達するまでも時間がかかるため
大学生や社会人出身よりも
長い目で見て時間をかけて育成する前提で
獲得しなければならない高卒選手によって
貴重な支配下枠を何年も埋め続けるのが難しくなっているのだ。
大卒や社会人も
一般的に大成までの時間が高卒より短いというだけで
1年目から一軍即戦力になる選手の数は
決して多くないのだから
彼らの枠も当然空けておかなければならないのに、である。
現実に合わせた高校生の上位指名とは
これらを踏まえたうえで高校生を指名させたいのなら、
変えたいポイントの一つめは
一軍出場枠+二軍出場無制限枠である支配下と
一軍出場権がなく二軍戦も計5人までと決められている育成の
二種類に分かれている現在の選手登録制度を
支配下のうち一軍出場枠をメインとした登録、
支配下と育成の中間に近い二軍出場を前提した枠、
それ以外の三種類とし、
現状だと育成枠で代用されている故障者リストも設ける。
これは同時に、
育成選手の二軍出場制限を無視して
支配下登録選手の一軍固定を主張したり、
「育成選手」の名前を教条主義的に解釈して
育成選手を若手に限定しなければならないと唱える
ファンの誤解を解きつつ、
わかりにくかった部分を明確にする目的もある。
そのうえで行う二つめは、
現在だと支配下指名、育成指名として行われている
ドラフトの指名順位と各登録との紐づけをやめること。
たとえば高校生を上位指名した場合に
契約金*2はちゃんと上位指名に値する金額を支払うが
1年目はそれまでの育成と同等の選手枠で登録する、
ということだ。
形としては
支配下指名と育成指名の区分をなくす手段だけを
行うことも不可能ではないが、
「育成枠」「育成選手」のままだと
「契約金(支度金)も年俸も
支配下最低額より大幅に下げないのはおかしい」という
巷のイメージ*3も一緒に受け継いでしまう可能性が高いため、
改革が必要になっている選手登録と
セットにしたほうが良いと思われる。
なお
コロナ禍での出場可能な選手数不足に端を発し
育成枠の若手やお気に入りの選手を一軍で使わせるため
巷でしばしば主張されるようになっている
70人枠そのものの拡大や撤廃は、
戦力均衡の観点からも絶対厳禁。
とはいえMLBのメジャー契約、40人枠のような制度も
日本ではなじみが薄すぎこれも誤解を生みやすい。
MLBと同じ40人を
現在の支配下選手の二軍出場と同様の
一軍出場選手登録無制限枠とし、
次に現在の一軍出場人数に合わせた最大20人を
二軍無制限かつ人数制限を設けた一軍出場可能枠にする。
最初の数年はこの枠を
元の支配下登録選手に極端な不利益とならないよう
最大30人に拡大してもいいだろう。
それ以外は
一軍出場不可とするかわりに
二軍出場制限数を現・育成選手より緩和するか廃止する。
もちろん一軍の出場選手登録数は今までどおり。
案として考えられるのはこんなところか。
支配下・育成選手制度の変更がもたらすもの
ただしこの案はほとんどの人が反対するだろう。
反対される理由についても少し考察したい。
ドラフト候補
まず反対すると思われるのは当のドラフト候補とその関係者。
高校生、大学生などの出自は特に関係なくだ。
今までは支配下で指名されていれば、
1年目から一軍出場する可能性は
たとえ極めて低いとしてもゼロではなかったのが、
「せっかく上位指名されたのに
1年目一軍の可能性が完全にゼロになってしまう」となれば
まあこれは当然と言えば当然だ。
ましてや
1位指名でプロ入りした高卒選手でも
いつ3、4年で戦力外になるかわからないと騒がれる昨今。
そうした早期戦力外の不安がより大きくなり
いくら上位指名で高い契約金を得られてもという意識も
強くなるかもしれない。
また大卒選手のほうも
「上位指名じゃなければ社会人に進む」ケースは
少なくないのだから、
その上位枠をわざわざ高校生に奪われるのは
たまったものではないだろう。
球団・現場
逆に球団や現場は賛成するんじゃないのか?といえば
そうとは言えない。
特に日本の現場の監督やコーチは
若手をはじめいろいろな選手を使いたがるものだからだ。

日本だと
NPBの監督よりもMLBのほうが選手を多く使っている、
特に9月以降のベンチ入りメンバー枠拡大を根拠に
MLBのほうが選手を柔軟に抜擢していると
主張する人がしばしば見られるが、
1チームあたりの起用人数は
この20年間NPBのほうがはるかに多い。
MLBの場合はメジャー契約の選手が
シーズン中によくトレードされるため
リーグ全体の実人数と1チーム平均との乖離が大きいのだが、
その重複を含めても3~10人多くなっているのだ。
MLBのほうはデータ元が
出場選手と登板した選手の数を記載しており、
投手起用数に野手登板の数が含まれているので
投手と野手、どちらがより多く起用されているかは
判然としないものの、
日本で起用が特定の選手に固定されていると批判されがちな
野手の起用数により大きな差がある可能性が高いのも
面白いポイントと言えるだろう。
なお1年間にMLBとNPB全体で起用された選手の数は、
MLB:NPBのチーム数が30:12、つまり2.5:1なのに対し
選手数では1.9~2.1:1で推移している。
これらの傾向から見えてくるのは、
現在の支配下登録・育成選手制度は
一軍起用、出場選手登録において
現場の監督、コーチの裁量による部分も大きい
ということだ。
二軍で好調な選手や使いたい選手を一軍に上げたい、
逆に最近あまり騒動としては聞かなくなったが
調子がいまいちな外国人選手などを二軍に下げたいのに、
契約に縛られて自分たちが思うような采配を振るえない。
そうなる可能性があるような改革案は嫌がるだろう。
また球団側から見た場合、
結果的に高校生の上位指名が増えると
今度はこれまで上位指名じゃなければ
プロに進まなかった選手を
ドラフト3、4巡あたりで獲るための契約金、年俸が
あがってくる可能性があり、
これまで育成ドラフトで指名していた選手の契約金が
育成指名の支度金より大きく増える可能性もある。
ファン・外部有識者
表題でも示したように、
今回出した案の目的の一つは
「ドラフトで高校生を上位指名させたい」という
外部の人たちの声を実現させること。
しかしこの案に対し
高校生の上位指名を求める人たちが猛反発するのは必至だ。
この人たちが
高校生を上位、支配下で指名させたいのは
彼らを20歳前後、できることなら10代の時点で
早々に一軍スタメン、ローテに固定させたいからであって、
その可能性が減るのは何としても避けたい。
そこまで高卒至上主義ではない外部有識者にしても、
自分が逸材と感じた選手は
逸材と感じたその年に即プロ入りさせたい、
大学や社会人などの中で
自分が思っていたほどの成長にならない可能性を消したい
思いが強い。
さらに言えば
気に入った選手、特に若手を一軍に上げたい、
調子がいまいちな中堅・ベテラン選手などや
使わせたい若手にとって邪魔な選手は容赦なく二軍に下げたい。
こうした意識もまた現場の監督よりもはるかに強いし、
自分に選手を見る目が備わってきたという
自信を身につければつけるほど、
自分が思ったとおりの起用を要求し不満をぶちまけるのが
ファンや外部有識者の常というもの。
そうした起用を要求するのに
今よりも一軍可能な選手枠数を削られ登録・契約に縛られるのが
まことに都合が悪いものなのは想像に難くない。
最初に指摘した一軍出場人数の話も
「ならその人数枠は使わないと育たない若手に全てふればいい」
「中堅・ベテランをどんどん戦力外にすればいいだけ」
人によっては
「それよりFA期間短縮と自動FAで中堅・ベテランを追い出せ」
などと言われるのがオチだろう。
このように今回書いた案は、
不利益を被る、または不利益を被ると感じる人が
非常に多くなる案でもある。
その一方で
現在の支配下選手と育成選手のシステムも
「ドラフトで高校生を上位・支配下指名させたい」願望も、
実際の一軍起用とは相容れないものになっている。
選手登録やドラフト指名の枠組みについて
若手を使わせたい外部のファンや有識者だけが
利益を得るような改革はないし、またあってはならない。
そのうえで
選手、現場などの利益と戦力均衡などリーグの利益との
折り合いをつけた改革が必要になっているのは
たしかなのである。