スポーツのあなぐら

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なぜプロ野球の先発ローテーションは中6日なのか~巨人、日本ハムの「中4日ローテ」を考える~

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2021年から一変した「先発中4日」の評価

日本のプロ野球の先発ローテーションをめぐっては、
2021年後半のジャイアンツが
それまでの中6日6人体制から
中5日主体の先発5人体制に移行したことが話題になり、
その時期にチームの調子が上向かなかったこともあって
むしろ問題視されていた。
サンチェスの戦線離脱や
今村信貴に加えて期待されていた横川凱、直江大輔なども
不調で使いづらくなったことが大きいのだろう。
完全に先発5人体制に移行した8月31日以降、
メルセデス菅野智之、山口俊、
戸郷翔征、高橋優貴以外で先発したのは
山口の先発回避で緊急登板した10月2日の畠世周だけである。
近年の発言とタイミングを考えれば
このアイデア
どう見てもこの年就任した桑田コーチの案なのだが、
どういうわけか
それまでヘイトがたまっていた
原監督と宮本コーチ(当時)とばかりが批判され、
今までしばしば目にした
日本の中6日ローテを「ぬるい、中4日にしろ」という
中6日ローテーションの「甘え」に対する批判も
最近はさっぱり聞かれなくなった。

そして当初
2022年の先発5人体制継続を示唆していたジャイアンツは
故障明けの山﨑伊織、堀田賢伸ややルーキーの赤星優志を
先発ローテに起用するかわりに
結局先発6人の中6日体制に戻している。
すると今度は
BIG BOSSこと新庄監督が就任したファイターズが
中4日体制の活用を明言、
2022年序盤から実行し始めたが、
BIG BOSSの采配への批判がわき起こっていることもあってか
試みを評価する声は
これまた皆無と言っていい。
先発ローテに対する世間の風潮が
ここ1年で唐突に180度転換
するとはなあ。

思えば
桑田コーチとBIG BOSSは、
どちらもMLBを経験したものの
NPBでの指導経験はほとんどないまま現在の役職に就任した。
このような人たちからすると
「なぜMLBでできることが日本ではできないんだ」
という疑問が頭の中によぎり、
先発の頭数が足りない状況が来ると
一度は試してみたくなるものなのだろう。
またもう一つ背景があるとすれば、
投手コーチ経験の長いOBが
ときおり指摘している
「手抜きができなくなった」ことか。
フライボール革命MLBほどではないにせよ
打者全体の打力が上がり、
下位打線やランナーなしの場面でも
良い意味での手抜きができなくなった。
そのため
同じ100球や完投でも
昔と今では疲労度に大きな差が生じ、
1年を通した起用を考えると
より球数を抑えることが必要不可欠になっている。
そこでさらに早い継投をする代わりに
先発の登板間隔を縮める選択が生まれるというわけだ。

 

なぜ日本のローテーションは中6日なのか

そもそも
日本のプロ野球はなぜ中6日ローテなのだろうか。

最も単純かつ明確な答えは
日程がそう作られているからである。
この答え自体は
それなりに唱えられているようだが、
日米で具体的にどのような違いになっているかは
見ることがない。
では
今年の日本シリーズを戦った
スワローズ、バファローズと、
MLBワールドシリーズで対戦した
ブレーブスアストロズ
曜日別の試合数を見てみよう。

曜日別試合数

NPB
月曜日の試合が極端に少なく
だいたい祝日か予備日しか試合が行われていないが
MLB
月曜の試合が多い代わりに
木曜日の試合数が日本とあまり変わらない。
ここから
日本のプロ野球
基本的に月曜日を休養日とする
6連戦か2連戦+3連戦*1
アメリカは
6連戦、9連戦、10連戦など
連戦の日数と休養日がばらばらに組まれ
月曜日に固定されてはいないと改めてわかる。
もし最近報じられたように
NPBの試合数を増やすことになった場合は
月曜日の試合が多くなり、
先発6人体制でも中5日登板が増える可能性がある。

 

プロ野球の日程で中4日ローテを組もうとすると

さて日本のように
特定の曜日が毎週休みになる6連戦システムでは
中4日ローテーションがかなり組みにくい。

中4日ローテ実験

実際に試してみると
エース格の中4日をできるだけ維持しようとする①の場合、
固定されたローテに組み込めるのは3人が限界。
4人をローテーションに入れる②だと
中4日と中5日の比率が均等だ。
しかしここで大事なのは
どちらの場合も
ローテ投手が投げる曜日と谷間の曜日とが固定されてしまうこと。
すなわち週1回か2回の決まった曜日に
中6日ローテーションの谷間が生まれる
のだ。
①は一応DとEも中4日で投げさせているが、
一度中4日で投げた後がどうやっても中8日空くので
中6日で投げさせても
ローテーション全体ではたいした違いにならないし、
現代風に言えば
リリーフ投手のオープナーやショートスターター起用もあるだろう。
谷間の発生を防ぐには
現代日本のように最初から中6日の6人体制にするか
③のような中5日中心の体制をとることになる。
2021年後半のジャイアンツが採用したのも③だった。

このように
日本のプロ野球が中6日ローテーションをとるのは
選手を甘やかしているなどということではなく
6連戦が徹底された日程が理由である。
それも
以前の130試合時代より試合数が増え、
月曜日以外の休養日が減って完全な6連戦日程になったことが
中6日ローテを促進する要因の一つだった
と言えるだろう。
また日本の日程での「中4日ローテーション」とは
現実の運用では
「中5日ベースでたまに中4日」をさすことも
忘れてはいけない。

 

過去の日本での中5日例

日本でも
昨年のジャイアンツとは少し異なるが
中5日が基本だった時代がある。
一例として
桑田真澄宮本和知も活躍していた
1989、90年の主な巨人先発陣の登板間隔を見てみよう。
チーム防御率がリーグ平均より1点以上低く
2年連続2点台を記録した年である。
なお登板間隔は先発でのものだけで
シーズン初先発はカウントしていない。

1989、90Gローテ

89年は桑田と斎藤が中4~5日で
他の選手は中5~6日が多い①型。
翌90年は中4日が激減し
中5~6日がほとんどの③型になったが、
実際は87、88年も中5~6日中心のローテーションなので
むしろ89年がやや特殊な年だったようだ。

ただ勘違いしないでほしいのは
桑田コーチや宮本前コーチが
自分たちの全盛期の野球を復活させようとしたわけではない

ということだ。
89年と90年は
それぞれ69、70完投と
非常に完投の多かった*2年で
おそらく130、40球投げるのも当たり前の時期だったと思われるが、
2021年後半のジャイアンツは
投球回の最高が8回で球数最多は122球。
打たれて早くに降板した試合も少なくないとはいえ
100球超えは全体の三分の一程度しかない。

 

MLB中4日ローテーションの真実

MLBのローテーションの作り方

ところで
MLBの先発ローテーションというと
「中4日」と喧伝されることが多く
「先発5人体制」と言われることがなぜか少ない。
しかし実際のところはどうなのだろう。
2021年のブレーブスアストロズ
桑田コーチが在籍していた2007年のパイレーツ、
この年のワールドチャンピオンであるレッドソックスとを
比較してみよう。

MLBローテーション例

2007年のレッドソックス
40歳のWakefield、Schillingや
日本からやってきて1年目の松坂大輔がいたこともあってか
中5日もかなり多い③型になっているが、
同年のパイレーツは
主要投手の中4日を維持する①型ローテーションが組まれている。
これに対し
2021年のブレーブスアストロズ
どちらも中5日の比重が高い。
先発5人体制は
休養日を挟むと必ず中5日になるが
今のMLBでは
そこでエースピッチャーの間隔を
中4日に縮めることを昔よりもしなくなったのか、
③型を採用するチームが増えているようだ。
日本では否定的な人も多いオープナーなども
先発5人体制を維持することが目的の一つと考えられる。

 

MLBは本当に100球以下の交代だったのか

近年の日本では
「中4日のMLBは100球以上投げない」と
思い込んでいる人が非常に多く、
ジャイアンツ首脳陣へのヘイトも相まってか
120球に達した試合はおろか
100球を超えた試合に対しても
その「酷使」がかなり批判されているのだが、
この球数についてはかなり大きな誤解がある。

MLB先発球数例

先ほどもあげた4チームに加えて
2021年レイズ、ドジャースも見てみよう。
これを見ると2007年当時は
100球前後で代えるという程度であり、
安定して投げられるエース格や球数を費やすタイプは
120球超も年に数回見られていた。
おそらくは
QS(クオリティ・スタート)の発想の裏返しで、
失点をそれなりに抑えられているのであれば
先発としての最低限のイニング・球数は投げてもらう
ためだろう。
そのころに比べると
100球未満での交代がかなり増えたものの
現在でも
100球を超えること自体は
そこまで珍しいものとは言えないのだ。
ちなみに2007年レッドソックスの120球超6試合は
全て松坂である。

この2000年代のMLBでの考え方は、
実は当時有効だと考えられていた可能性がある
PAP(Pitcher Abuse Point)の計算法からも見出すことができる。
計算式が(100球以上の球数-100)の3乗の合算で
危険域が年間10万以上ということは、
1試合で110球だと1000、
120球なら8000が加算される。
裏を返せば
毎試合110球なら30試合先発しても3万にしかならないわけで、
120球程度の球数も毎試合ならともかく
年に数回程度では
危険域とされる10万超にそうそうなるものでもない。
このような見方もできるのだ。
実際この間のPAPは
120球超が2回ある戸郷ですら
シーズンの四分の一強で20,250なので
このペースで1年間通したとしても
年間で10万を超える可能性は高くなかった。

 

日本における「先発5人体制」「中4日ローテ」の可能性

1年間を通した結果ではないので
正確なことを断言はできないのだが、
2021年巨人の先発5人体制とは
先発投手5人をできるだけ固定したうえで
球数は2000年代のMLBを参考に
ある程度幅を持たせた「100球前後」で6~7回を投げ切る、
このような方針だったと考えられる。
事実、
この時の巨人先発陣の球数は
2007年のMLBと似た傾向があった。

ファイターズの場合は
2019年にいち早く
ショートスターターを取り入れようとしたように、
長いイニングを投げられる投手が少ないことが
近年大きな課題の一つになっていた。
若い先発候補の伸び悩みも際立っている。
そこで
先発6人体制をショートスターターで何とか維持するよりは
「先発5人、中5~4日」となったのだろう。
球数等は2021年巨人とあまり変わらないと思われる。

考えられる問題点はやはり球数とイニング。
果たしてMLBと同じ程度の球数で
同じ打者数、イニング数を投げ切れるのか。
バッテリーが2ストライクからの1球外しなどで
過剰に球数を使いたがるのは
元プロの解説者からも指摘されることであるし、
ヒットを狙わずにファウルで粘るバッターというのも
日本では珍しくない光景である。
そんな中で
球数を抑えながら相手打者をしとめる投球術と配球が
可能なのか。
日本では
球数を無理に抑えない代わりに
登板間隔をさらに空けることが多くなったが、
この風潮に逆行する実験から
どのような結果が得られるのか。
特に今まで
日本の中6日ローテーションを批判していた人たちは
昨年一度返した手のひらを元に戻し
この結果を見守るべきだろう。

*1:この2連戦には本拠地以外の地方球場での転戦も多い

*2:投手が打席に立つセリーグでは、60完投以上は1968年阪神以来、70完投以上となると2リーグ制以降1950年と90年しか出ていない