今回は
ベイスターズのショートの歴史について見ていきたい。
「横浜のショートと言えば」と質問された時、
ホエールズ時代も含めれば何人か選手の名前が出ると思うが、
「ベイスターズ」に限定した場合、
おそらく圧倒的に名前があがるのは石井琢朗だろう。
チームと全盛期が重なった石井琢朗
既にサードの定位置を獲得していた石井が
正ショートになったのはプロ入り8年目の1996年。
大矢明彦監督が就任し、
ショート進藤、セカンドのローズ、サード石井が
それぞれセカンド、サード、ショートにコンバートされたときだ。
進藤とローズはうまくいかず
ローズはセカンドに戻り進藤はサードに落ち着いたが、
石井はショートでさらなる成長を遂げた。
不動の正ショートとしてチームの日本一にも貢献した一方で、
全盛期は思いのほか短い。
ショートでリーグ平均を大きく上回ったのは
1997~2001年。
チームが5年連続Aクラスの黄金期だった時期と
ぴったり重なる形になっていた。
2002年以降は高い守備力と走力が売りのベテラン選手といった印象だが、
それでも36歳まで1年おきにリーグ平均程度の成績を残したのは
見事と言うしかない。
ショートスタメン固定はいつごろだったか
石井以外の時期は迷走が続いている横浜のショート。
チームも5年間の黄金期以外はずっと低迷しているのだから、
さぞかし打てないベテランばかりが使われていたに違いない
と思う人は多いだろう。
迷走が始まったのは1985年。
10年近く定着していた山下にやや衰えが見えてきたと感じたのか、
85年に就任した近藤貞雄監督は
セカンドの高木と山下を交換する。
その近藤監督のあとを受けて就任したのは古葉竹識。
古葉監督は高木を再びセカンドに戻し、
前年セカンドでの起用が増えていた
高卒5年目の高橋を抜擢した。
ただ高橋はバッティングがかなり伸び悩む。
そんな中で92年、
高卒2年目から控えで使われていた進藤が
5年目にして正ショートとなった。
このとき二番手ショートでもあったのが
野手へコンバートされていた4年目の石井琢朗。
石井がサードスタメンに定着したのは翌年である。
進藤はバッティングでも
ショートとして悪くない結果を残していたが、
コンバートの話が出たのは
石井の素質に加えて
右肩の故障歴を重く見たからだろうか。
これがショート石井の前の時代の話。
次は石井の後の時代を見ていこう。
先ほどの法則をふまえると、
2008年の石井は初めて2年連続で不調の年だったことになる。
完全に年齢的な衰えがきたと判断されたのか、
この年の後半は高卒4年目の石川がスタメン起用された。
当時の監督は二度目の就任だった大矢明彦。
引導を渡すならコンバートした自分でとの思いもあったのかもしれない。
石川はその後3年間ショートで起用されたが
バッティングの伸びがいまいちよくなかった。
守備が良ければよかったのだが守備の評価も低く、
DeNAになり中畑清監督が就任したところで
セカンドへコンバートされた。
この後はしばらく併用が続く。
一番期待された梶谷は内野守備に不安が多く、
山崎はバッティングが弱い。
白崎なども結果を出せなかった中で
2016年に固定されたのが倉本だった。
ただその倉本も打撃・守備とも伸び悩む。
そしてチームはFAになった大和を獲得し現在に至っている。
若手を取り替え続ける
横浜の歴史上でも
かなり長くレギュラーに定着していた石井琢朗は、
実はショートスタメン定着が遅い部類の選手だった。
他は大学時代からセカンドだった高木を除くと
22~25歳での起用が多く、
特に高卒選手の抜擢が目立つ。
大卒や社会人出身の場合も
社会人から2年目で固定された倉本は早生まれの25歳。
また山下は大卒2年目で定着したが
彼もまた早生まれなので23歳だ。
山下が10年間スタメンに定着し続けたから
起用が全て外れたわけではないものの、
それ以外の選手で山下のレベルに近かったのは進藤ぐらい。
そしてその進藤も含めたほとんどの選手が
26~28歳で次の選手と交代している。
つまりこれまでの横浜では
20代前半の若手をショートで起用し
バッティングの全盛期を迎える直前で次の若手と交代させる、
そんな若手をとっかえひっかえする起用が続いていたのだった。
19~21歳でのスタメン固定を強く主張している人たちには
22、3歳での固定化は遅くて不満かもしれないが、
ベイスターズのショート起用法は
結果的にこの人たちの理想に近い形をとってしまっていた。
すなわち「若手を抜擢し続けること」である。
その中で打撃・守備とも最も良い結果を出したのは
26歳でショートスタメンになった石井。
一軍スタメン定着自体は他のショートと同じ年齢だったが、
20代後半でショートに移った選手が
他の選手より長く活躍した事実は
重く受け止めるべきなように思う。
ただでさえ
「高卒1~3年目の選手を聖域にしろ」
「高卒5年目は圧倒的な数字を残さなければクビ」
といった外部の風潮が強くなっており、
ベイスターズでも
高卒1年目の森敬斗や田部隼人の評価が急上昇しているらしい
現在ならなおさらだ。