スポーツのあなぐら

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「育成が上手い」カープのショート事情

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昨年のドラフトで4球団競合した広島の小園海斗が
2019年フレッシュオールスターでHRを放ちMVPを獲得した。
田中広輔の不調もあって先月早くも一軍昇格し
今月は二軍で好調であることもあって
現在再び一軍にいる。
そんな小園を「今後スタメン固定しろ」と
主張する人は非常に多く、
1試合でもスタメンに入っていないと
激怒する様子がSNS上で頻繁に見られる。
たまに
「小園と田中や三好、曽根を競わせろ」と言う人もいるにはいるが、
実際は昨日のように
小園が試合途中から外れただけでブチ切れてるので
本当は競わせる気などさらさらないのだろう。
彼らは緒方監督に対して
田中の「聖域」を批判していたはずなのに
これはいったいどうしたことか。

というのが2019年7月22日時点の状況。
あの後小園は
プライベートのほうでファンの評価が下がってしまい、
2021年時点では
小園に期待する人もまだ多い一方で
ショート小園は早々に切り捨て
2019年に獲得した韮澤雄也や
2020年指名の矢野雅哉に期待をかける人もかなりいる。

今回はそんな広島東洋カープ
ショートの歴史を振り返ってみよう。

 

 

高卒1、2年目を抜擢した経緯

まずは1988年から見てみることにする。

C1988-2004

1980年代に不動の一番ショートだった高橋慶彦の成績が
30代になって低下しだしたのが88年。
高橋は89年オフにトレードされ、
88年に獲得し1年目は外野で起用されていた野村謙二郎
2年目からはスタメンショートに入った。
成績はリーグ平均を上回る数字を残し続けている。

さてこの野村に代わってショートレギュラーになったのは東出。
高卒1年目から二軍で好成績を残し
最初は前年に正田耕三が引退*1
二番手だった苫篠賢治も不調に陥ったセカンドで起用された後、
2000年からショートに回った。
野村の出場機会が減った99年は
セカンドで開幕スタメンだったディアスがショート一番手である。
しかし高卒2年目の選手を野村の後継にするとは、
見方によっては無計画とも言えなくはない。
このときの広島は何が起こっていたのか。
それはこの前の若手育成がうまくいかなかったからである。
97年の主な二軍ショートは福地とソリアーノ
しかし福地は翌年から外野での起用となり、
ソリアーノは交渉が上手くいかずで退団した。
この時点で30歳を超えた野村の後継者を
しっかり準備しておきたかったはずだが
実際には育成が一度破綻寸前に追い込まれていたのだった。

この東出が上手く成長すれば申し分なかったが、
東出はバッティングがやや伸び悩んだうえに
イップスも発症してしまい
ショートでの育成は事実上失敗に終わった。
その後2003年からは
当初守備に定評のあったシーツが
打撃で好成績を残すも
2年で退団、移籍している。

 

梵から田中の時代へ

C2005-20

シーツが退団した2005年は
2年目の尾形がスタメンに定着するも
負傷で戦線離脱。
そこで今度は1年目の梵が起用され
さらに2014年頃からは田中への世代交代が行われ
現在に至っている。
梵、田中ともに好不調の波はあるのだが
それでもトータルで見ると
ショートでありながら
一軍平均を超える打撃成績を残している。
一方でこの間の二軍は
若手の育成を行ってはいたものの、
バッティングがなかなか伸びてこないか
菊池や鈴木のように
他のポジションで開花するかのどちらかだった。
2020年の小園は最終的に好成績を残したが
中盤まではさほど打っていなかった前年よりも成績が悪く、
そんな不調の若手を一軍に抜擢する余裕はなかった。

 

「育成上手」のファームの現実

今回振り返った30年強を見てみると、
昔から「育成上手」とされるカープのショートは
大卒と社会人出身。
特に何年もレギュラーに座る選手ほど
プロ入りから1、2年で一軍に定着していることがわかる。
逆に二軍で何年か育成した選手では、
他のポジションでレギュラーになる選手はいても
みな一軍のスタメンショートにはなっていない。

実はカープの場合、
もっと過去まで遡り
東出などの高卒選手を加えても
長い時間ファームで育成されたあと
ショートレギュラーに定着した日本人選手がいない。
高卒3年目途中で一軍に定着した高橋慶彦が最長で、
あとは
高橋の前の正ショート三村敏之のような
1年目から併用の形だった選手も含めて
全員が1、2年目には一軍に定着していた選手ばかりなのだ。
三村や古葉毅*2のように大学・社会人を経た選手も
高卒選手*3も全員である。

他のポジションでもややそのきらいはあるが
ことショートに関しては、
カープのファームの育成力は
これまで極めて限定的だった。
即戦力をスカウトし
その中から
入団直後に首脳陣に見いだされた選手が
すぐに一軍で結果を出して初めて成り立つのが
カープのショート育成
だったのである。
さて田中の後継者はいったいどうなるだろう。
もし小園が定着した場合は
2年目後半から成長を引き出したファームの力ともとれるし、
「1年目に一軍で使ったからで
2年目も一軍で使い続ければすぐ大成できた」
と主張する人も多数出るだろう。
あるいは韮澤や矢野が急成長して定着するのか、
それともこれまでと同様に
新たに獲得した即戦力が
早々にスタメンを奪取するのか。
いずれにせよ
年齢的にも田中のタイムリミットはもうすぐである。

*1:最終年となる98年にも規定打席到達

*2:のち竹識

*3:2リーグ制になってしばらくはプロアマのレベル差が今よりなかったことや選手間の打力の差が激しかったこと、二軍設備が充実していないこともあってか、打撃成績が悪くても高卒1、2年目でレギュラーに定着するケースは珍しくなかった。