スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

ドラフト会議と観客

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さて、前回ドラフト会議のショーアップ化を事実上擁護したわけだが、
一方でよく反対派が主張する倫理観や信仰の部分以外で
問題点はないのかというと、
たしかにある。
最近どこかの記事で指摘されていた
「観客の質」の問題だ。
「我らがチームに来る選手に大歓声をあげる」のは
そんなに悪いことじゃないだろうというのが私の感想なのだが、
その記事でも取り上げられていた「指名選手にブーイングを浴びせる」事態となると
さすがに話が変わってくる。
それも、アメリカにありがちな
「ライバルチームにいい選手がいく」ことに対するブーイングならともかく*1
ブーイングをしたのが明らかに大山悠輔を指名した阪神ファンだったのは
大問題と言っていいだろう。
たとえ大山が今後さらに成長して日本を代表するスラッガーになったとしても、
「反発心が芽生えた」などと美談にしていい話ではない。


しかし、そもそもなぜこういうことが起こるのだろうか。
本当にファンをドラフト会議会場に呼ぶことだけを悪と言えるのだろうか?

ドラフト候補の知名度

日本野球の場合、
ドラフト候補の知名度に関してはたかが知れているとしか言いようがない。
以前書いたように、大半の人が知っているのは
その年の甲子園に出た選手のごく一部と、
各種メディアで何十回も取り上げられた選手ぐらいなものだ。
ドラフト中心ではない野球関係の雑誌でも
1年に何度か特集が組まれているのだが、
読んでいて、かつ覚えている人はほとんどいないということなのだろう。
大山の件はこの典型的な例と言っていいだろう。
佐々木千隼が田中正義に次ぐ大卒投手として盛んに紹介されていたとはいえ、
佐々木じゃなく「日本代表の四番」大山が指名されてブーイングとは、
字面にするとこんなおかしな話もそうはない。

一方のアメリカはというと、
アメリカンフットボールやバスケットボールなどで
大学スポーツの人気が非常に、というか異常なほど高い。
全国大会は7、8万人規模の会場が超満員になるほどだし、
大学所有のフットボールスタジアムは収容人数がNFLをはるかに上回り、
10万人を超えるスタジアムもいくつかある。
これだけの人気をほこるとなると、
ドラフト候補の知名度もおそらく相当に高いのだろう。
しかもNFLNBAはアーリーエントリーなどの特例を用いない限り、
基本的に大学出身選手しか指名することができない。
ということは、これらの一大コンテンツの中で
既に一定の知名度を得た選手が指名される構図になっていることになる。

そうやって改めて考えると、
MLBのドラフトで会場にファンをあまり入れようとしないのは
こうした理由も一因かもしれない。
つまり他のスポーツに比べて高校や大学野球の人気がないので、
ファンがその場にいても選手の名前をほとんど知らず、
盛り上がりに欠ける可能性が高いということだ。
それに、3日目は指名のペースを考えても観客を入れる意味が見当たらない。

ドラフトに対する知識と宗教

NPBのファンの場合、それに加えてもう一つ厄介なのが
チームの強化方法に対して妙な教義を持っていることだろう。
1位は誰もが知っている候補を向かい、抽選を当てる。
とにかく育成を重視して高校生を獲る。
選手は全員生え抜きでFAやトレードは基本ご法度。
一般のファンは、こういった教えを約30年、
特にFAと逆指名制度ができてからは25年間受け続けているのだ。
それも、野球専門ではない新聞、雑誌、ネット上の記事など
全ての媒体で広められてきたものだ。
しかもこれらはただの受け身というわけではなく、
甲子園大会の存在や日本人の性質など様々な理由があって、
元々これに近い考え方が染みついているのも大きな要因かもしれない。
むしろ先ほど挙げた教義は、
そうしたファンの気質にお墨付きを与えられただけ、とも言えるだろうか。
逆にこういう媒体を軽蔑している人たちにしても、
自分の信仰を後押ししてくれる話しか興味を持たないものだし、
自ら学ぶという人はごくごく少数なので、
最終的な結果は全く同じだ。

この2つが組み合わされた結果が、
2016年の大山指名へのブーイングであり、
昨年の某TV番組で巨人に鈴木博志単独指名を推された時の
巨人ファン某氏のあの表情になるわけだ。
自分はドラフト候補をほとんど知らないが、
俺様が知っている(数少ない*2)ドラフト候補を入札すれば
応援しているチームは強くなるはずだ。
そういう自意識が潜在的にはたらいていたのが、
あのような指名選手を侮辱する結果を招いたのではなかろうか。
しかも、ドラフト会場へのファンの招待を叩いている人が、
指名選手をよく調べようともせずにプロ入り前から叩くことなど
日常茶飯事だ。
結局のところ、大した知識を持とうともせず、
一方で中途半端な戦力強化の教義を持っていることが
あのブーイングの最大の原因と思えてならないのだ。
ああしたブーイングを出すファンや彼らを何も考えず批判するファン、
そしてこれを書いている私自身などに対しても言える言葉はただ一つ、
「『無知の知』を知れ」ということではなかろうか。

ファン目線ドラフトのおさらいと現状

最後に、もし完全なファン目線でドラフトが行われたら
どのような結果になるだろうか。
前に一度出した2014・15年の中日の例でおさらいしてみよう。


2014

1位 山﨑康晃 投手 亜細亜 横浜外れ1位
2位 栗原陵矢 捕手 春江工業高 ソフトバンク2位
3位 香月一也 内野手 大阪桐蔭 ロッテ5位
4位 島袋洋奨 投手 中央大 ソフトバンク5位
5位 高濱祐仁 内野手 横浜高 日本ハム7位
6位 脇本直人 外野手 高崎健康福祉大学高崎 ロッテ7位(2017年戦力外)
7位 幸山一大 外野手 富山第一 ソフトバンク育成
8位 鈴木優 投手 雪谷高 オリックス9位
9位 佐藤雄偉知 投手 東海大相模 中日育成(拒否)

2015

1位 高橋純 投手 県岐阜商 ソフトバンク1位
外れ1位 小笠原慎之介 投手 東海大相模 中日1位
2位 成田翔 投手 秋田商 ロッテ3位
3位 茂木栄五郎 内野手 早稲田大学 楽天3位
4位 平沼翔太 内野手 敦賀気比 日本ハム4位
5位 佐藤世那 投手 仙台育英 オリックス6位
6位 谷田成吾 外野手 慶應義塾大学 指名なし

このシミュレーションは2016年に行ったものなので、
現在活躍できていない選手も後付け設定ではない。
この年、特に2014年の実際のドラフトが大失敗になっている中日だが、
3~4年たった現在の状況と比較してみるとどうか。

 

  • 山﨑、茂木がいるので実際の指名よりはまし

とりあえず大卒の山﨑と茂木がこれまで活躍しているので、
活躍している選手が皆無に近い実際のドラフトよりはいい結果となっている。
おめでとう。

 

  • この2人以外の伸びがかなり悪い。高校生も厳しい選手が多い

特に2014年は既にNPBにいない脇本や社会人で登板がほぼない佐藤など
同じ年に指名された他の高校生よりも伸びがかなり悪く、
使えるポジションも限られすぎている。
投手は山﨑と実際に中日が獲得した小笠原以外ボロボロの状態だ。

 

  • 今と組み合わせると、高橋・福田・茂木・京田・平沼…内野が妙に余ってる

これは今年になってからの結果論だが、
内野手の数が中途半端に余ってしまった上に、
ビシエドを入れる余地がなくなってしまっている。
福田をレフトに入れるか、
あるいは大卒かつ今年不調で不要扱いされているらしい京田を外せば、
今ごろ平沼を堂上で補えて幸せな気分になれるかもしれないが。

どうもこれらの年は、
ファンの知名度が高い選手ほど苦戦する傾向が強いようだ。
しかも甲子園に出場しているかどうかも直接関係は見られない。
なにせ指名された年の甲子園に出場していた
石川直也や飯塚悟史といったほとんど歓声のあがらなかった選手たちが、
どういうわけか歓声のあがった選手たちよりも成長のあとを見せているのだ。
彼らの成長の違い自体は単なる偶然としても、
NPBにおいて高卒選手の知名度の高さが
その後の成長に大した影響を及ぼすわけではないのはたしかと言えるだろう。
これも当たり前のことだろうと言われてもおかしくないのだが、
こう書かないと*3誰も自覚など持たないことでもあるのだ。

それと今になって思うのは、
2015年のほうの指名は当時激怒する中日ファンも多いんじゃないかということだ。
今でこそセカンドとショートに分かれているから全く問題ないとわかるが、
ドラフト1位高橋周平と同い年の茂木栄五郎が
サードでかぶっている。
「未来のスター選手を大卒ごときで潰そうとするとは何事だ」と
当時のGMが袋叩きにされるのは確実なように思える。
スカウト部長主導ならそこまで叩かれることはなさそうだが。

*1:まあこの習慣も日本人の感覚に合うかと言われたら大いに疑問なんだが

*2:ただし本人は数少ないとは思っていない

*3:というかこう書いたところで