広島は「FA流出で弱体化した」のか?
あくまで言い方、書き方の問題なのだが、
「カープはFA流出が続いて弱体化した」という風潮が見られる。
しかし「育てても強くなれなかった」ならわかるが
「弱体化した」と書くとおかしなことになる。
それはなぜか。広島の弱体化は2000年代ではなく90年代後半だからだ。
97年に3位ながらも4年ぶりに負け越すと、
98年からは2001年の勝ち越し(4位)を除いて5位付近が定番となっていく。
では90年代のFA流出はというと、
94年オフの川口和久と99年オフの江藤智の2人
(オリックス、西武に次ぐ数字で、近鉄、ダイエー、阪神と同じ)である。
つまり弱体化する時期の流出は実質川口1人ということになる。
93年から急激に衰えの見えていた川口の流出で弱体化とは無茶な理論ではないか。
主力の流出が相次ぐのは2000年代に入ってからで、弱体化した後なのだ。
ちなみに同時期のFA獲得は、セリーグは巨人が圧倒的に多く(7人)、
NPB全体ではダイエーが5人で続く。
獲得なしは広島以外にヤクルト、オリックス、近鉄、日本ハムの5チームがある。
弱体化は結局、90年代のドラフトの失敗が最大の原因だったのだ。
逃げるは役に立つし恥でもない
ドラフト評論やどこか特定のチーム(主に巨人)、セリーグを批判する記事の場合、
1位指名で一番人気とされる選手を避けること、特に単独指名を狙うことは
一律に「逃げ」と呼ばれる。
そしてこの「逃げ」を多用するチームは、
一番人気を狙って抽選を外し続けたチームよりも強くならないのだとか。
では今年もセリーグで好調を維持し続けている広島はどうかというと、
ここ10年で一番人気に向かったのは3回(大石達也、有原航平、田中正義)、
単独指名4回はセリーグでは巨人の5回に次ぐ2番目、
NPB全体では4番目(最多は西武、オリックスの6回)に多い数字である。
公言するも楽天に特攻された2012年森雄大を含めると単独狙いは5回になる。
このように見ると、カープは「逃げ」を活用して強くなったと言えるわけだ。
広島の場合は巨人が一時期多用した逆指名とは異なり、
地元出身や選手とスカウトとの信頼関係の構築(前田健太や大瀬良大地などで見られた)、
チーム事情や環境に適合する選手の精査などをうまく活用して
他球団に暗黙のうちに手を引かせる手法をとっているようにも思える。
逆指名時代のチーム環境や当時の失敗を生かした戦略ということだろうか。
抽選も99年の河内貴哉の後は、2013年大瀬良大地、昨年の中村奨成を当てたものの
それ以外の年は外れ指名も含めて外し続けているので当然の選択か。
もう一つ特徴をあげると、1位入札は大学生投手が10回中6回と多い。
抽選に向かう場合も大学生がほとんどで、
高校生には外れでもあまり行かないようになっていた。
前田クラスの即戦力や中村奨のような選手なら話は別なようだが。
またここ10年の上位指名は高投4、高野4、大投8、大野3、社投1、社野0。
2位を含めても大学生投手がかなり多かった。
全体的には、上位で高校生と野手を獲らせたがるドラフト評論とも、
逆指名時代のカープとも逆の戦略、いわゆる
「(否定的な意味での)『ドラフトの鉄則』に沿った指名」をとって現在につなげている
(もっとも中村恭平、薮田和樹、加藤拓也といった素材型も少なくないが)。
それでも2012年2位の鈴木誠也が大ブレークしたことで、
ドラフトを知らない人は「こうした高校生を上位下位で獲り続けている」と
思い込んでいる節がある(ドラフト評論家も)。
ただ昨年、一昨年の投手指名は薮田の成長で味をしめたのか、
高卒・大卒ともに素材偏重の指名が再び目立つようになってきた。
短期間での育成のノウハウがしっかり確立されているならいいのだが、
投手の層はそこまで厚いようには見えないため、
高橋昂也や既に故障してしまった床田寛樹ら準即戦力クラスの投手に対して
90年代のように大きな負担がかからないかが心配だ。
投手起用に見るカープの特徴
「先発投手=高卒、リリーフ=大卒、社会人」という固定観念は
ドラフト評論家だけではなく現場の首脳陣にもよく見られる光景である。
ところが広島投手陣を見ると、
この2年間のうち高卒で先発登板したのは
昨年の中村祐太14試合があるが、それ以外だと戸田隆矢6試合に
高橋樹也、塹江敦哉の各1試合しかない。
2016年だけなら戸田5試合と塹江1試合だけだった。
リリーフにはクローザーの中﨑翔太、
セットアッパーの今村猛のほか中田廉もいるが、
一昨年までのエース前田健太が抜けたとはいえ
カープでは通説とは全く違った編成が作られている。
実は広島は逆指名時代に大量の高校生投手を獲ってきたにもかかわらず
ずっとこうした傾向が続いており、
リリーフにはこれまでも横山竜士や林昌樹などがいた反面、
2年以上先発ローテで活躍したのはFA移籍した大竹寛と前田以外では
長谷川昌幸ぐらいしか見当たらない。
カープの育成戦略に学びたいのであれば、
「先発投手=高卒、リリーフ=大卒、社会人」の図式は
いいかげん頭の中から消したほうがいいだろう。
ショートをめぐるカープの謎
じゃあ野手はというと、
奇妙な特徴としてはショートにだけ高卒がほとんどいないことがあげられる。
野村謙二郎以降は東出輝裕が3、4年入った以外は
シーツ、梵英心、田中広輔など、外国人と大学・社会人出身が入ることが多いのだ。
最近は球界全体で高卒のショートが定着できず、
定着しても今宮健太や中島卓也のように打撃が伸び悩むケースが増えてきたが、
このチームはその傾向を先取りしていたかのようだ。
一方で最近の傾向はというと、このショートがまたポイントであるようだ。
先ほどあげた5人のショートはいずれも入団1、2年目に固定された選手なのだが、
それ以外に二軍でショートとして育成された選手が
一軍では空いたポジションに回されるケースが増えてきたのだ。
セカンドに回った後の東出や菊池涼介、鈴木誠也、安部友裕などがこれに該当する。
逆に最初からセンターライン以外で育成された選手はいまいちである。
現在戦力になっていると言えるのは大ベテランの新井貴浩と
元々ライトだった松山竜平ぐらい。
守備力の評価が大きく分かれてポジションがなくなった堂林翔太のような例もあるが、
サードの育成も視野に入っているという中村奨や
元々レフトだが内野の可能性も見るという永井敦士などは今後どうなるだろうか。