※ニコニコのブロマガにあげた内容を加筆修正したもの。
「育成上手」とはある特定の球団を褒める際によく使われる言葉だが、
一言で「育成上手」と言っても、
本来はチームの置かれているあらゆる状況に左右されて変化するものである。
しかしこの「育成上手」という言葉が使われるときは
「論者にとって都合の良いある特定の一部分だけが抜き出されて」使われたり、
ひどい時にはありもしない宗教がそのチーム(人物)の戦略として強調されたりする。
また同じチームで、かつ育成成功数は大して変わらないのに、
ある特定の時期だけが「育成上手」と称され、
他の時期はむしろ非難の嵐だったりもする。
このように「育成上手」とは定義が非常にあいまいな言葉なのだ。
そのせいか、たとえばソフトバンク、日本ハム、広島の
実際には明らかに異なる「育成上手」が
「全て同一の手法」としてとらえられることも多い。
なぜこんなことになるかというと、定義は非常にあいまいな言葉なのに
「育成とはある特定の手法しか存在しない」という認識だけが
世間一般に広くしみついているからでもあるのだろう。
しかもこの「育成上手」どころか「育成」は褒め言葉なので、褒めたい相手にだけ使われる。
けなしたい相手にはたとえ似た状況が起こっても使われることはないのだ
(使われるときは「育成下手」「育成できない」と常に否定形)。
育成が褒める材料として話題に出る場合、
そのパターンはだいたい2つのうちのどちらかだと思われる。
1つ目は「育成上手」のお墨付きがあるチームであること。
もっともこの場合は、「育成下手」のレッテルを貼られたチームでなければよい。
より重要なのは次。その選手が高卒か、地方大学リーグの大卒であることだ。
あとは状況次第で独立リーグならありうるが、
少なくとも有名な大学リーグ(東京六大学・東都・首都・関西学生)と社会人は
よほどのことがない限りこの手の話題にあがることはない。
あがる時は出身チームの存在がなかったことにされる。
なおドラフトの順位や年齢は全く関係ない。
たとえばの話を2つほど考えてみよう
① 菊池涼介(広島)
菊池涼介はカープの「育成上手」の1つに数えられることが多い。
ただ彼は、1年目から63試合に出場し、2年目にはほぼフル出場した即戦力である。
これほど早く出られた即戦力野手が「育成上手」という言い方でほめられるのは
「育成上手のチーム」以外にありうるだろうか?
スカウトや菊池自身の才能・努力、起用法など
褒めるところは他にもいくらでもあるだろうに。
またたとえ同じクラスの選手が出ても、最近なら巨人、中日、ロッテ、オリックスあたりは
褒められること自体まずなさそうに思えるのは気のせいだろうか
(阪神は2015年以前ならなさそう。今なら「超変革」として祀り上げられるだろうが)。
私が知らないだけかもしれないが、
高卒2~3年目で先発ローテに定着した田口麗斗に対して
巨人の「育成」が褒められることはまずないこの世界で、だ。
② 宮崎敏郎(横浜)
昨年完全覚醒したセリーグ首位打者。
ドラフト6位指名で、最初の2年間はポジションが埋まっていたのもあってか苦労していたが、
一昨年あたりから打撃がさらに伸び始め、現在はサードの穴を完全に埋めている。
しかしこの宮崎に対しても宮崎を褒める声は多少あっても、育成を褒める声は少ない。
しかも最近は育成の評判が決して悪くない横浜で、である。
一応理由は大卒社会人5年目の29歳だったから、なのだろうが、
一昨年序盤の福田秀平(高卒10年目)や交流戦後の城所龍麿(高卒13年目)といった
ほぼ同年齢のソフトバンクの選手たちと比べるとどうだろう。
愛称も作られて他チームのファンからも人気のある選手なのだが、
育成絡みの話になった途端に宮崎自体の扱いが弱いように見えるのは
本当に私が穿ちすぎなだけなのだろうか?
これらのたとえが単に私の思い過ごしならいいのだ。
しかし上位指名のほぼ即戦力が「育成上手」ともてはやされるのは何か変だし、
ほぼ同年齢で成長した選手でも社会人出身と高卒(しかも2人とも上位指名)で
「育成」評価で差が生じるであれば、かなりおかしくはないだろうか。
大卒だと、チーム(監督)や選手個人へのヘイトが
何らかの形でたまった場合は話が変わるだろう。
少なくとも、菊池と同じリーグ出身の吉川尚輝や野間峻祥は
今年活躍したとしても褒められそうな気配がまるでしない。
有名大学という点で最近一番過剰なのは早稲田大か。
茂木栄五郎は早大出身であることを誰もが忘れていそうだし、
打撃成績が急上昇した中村奨吾にいたっては
ロッテファンにすら「使うな」の一点張りが多いと、
あるロッテファンのフォロワーが嘆いていた。
もはや「育成上手」とは、
特定のチームへの批判と自らが信仰するドラフト・育成手法への
誘導の言葉でしかないのだろうか。