スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

プロ野球先発投手のPAPランキング 2023年最新版

スポンサーリンク

ここでは
今もごくたまに見かける
PAP(Pitcher Abuse Point)について、
2006年以降のPAPが多い主な投手をあげてみよう。
このPAPは
(100球を超えた球数の3乗)を加算したもの。
2000年ごろのアメリカで考え出された指標だが
MLBでは既に用いられなくなっている。
日本だと
唯一使っていたスポーツライター
用いなくなってきているらしい一方で、
SNS上で用いる人が増えている。
ただ用途が
日本のプロ野球全体か監督采配の
どちらかを批判する際に
限定されていることは変わらないが。

 

 

PAPに関する基本事項

日本とアメリカで異なる大前提

そもそも
PAPはMLBの中4日ローテを前提とした指標である。
ただでさえ
MLBでも意味合いが疑問視されている指標なのに
中6日が主流で
前提条件すら異なるNPB
当てはめる意味があるのだろうか、
という疑問が出てくる。
また前提条件の違い以外にも、
それまでの年間のイニング数、球数や
ベンチ前キャッチボールも含めた
イニング間投球練習の球数、
対戦相手や時代によって
全力投球がどの程度の割合を占めているのかなど
他にも考察・精査しなければいけないポイントがあるのに、
先発投手の故障や不調の原因を
PAPだけで簡単に断定するわけにはいかないのである。
一応この点に配慮してか
Twitterなどでは
登板間隔に合わせて作られた計算式が用いられているようで
リリーフ投手用に作られた計算式も存在するという。
この指数自体は
あらかじめ計算式さえ作っておけば
比較的簡単に出せるものなので
100球を起点とした
先発投手のあり方の変遷を見るぶんには
多少役に立ちそう
だが、
これを使っての未来予測や
肝心の投手の酷使との関係について
因果関係を見出すのは
いささか無理がある

この後出す表を見ても、
よほどとんでもない数字を叩き出していたり
長年の蓄積があったりでもしなければ
1年の数字と翌年の成績悪化や故障とに
相関関係は特に見当たらない。

 

計算上の問題点

他にも難点として挙げられるのが
1試合あたりの点数=100球を超えた球数の3乗
という指標の性質上、
たった1試合の結果が非常に大きな影響を与える可能性がある
ことだろう。
2000年代において
極端な例として出たのが2006年の有銘兼久
彼は8月25日の試合で延長12回188球を投げぬいたが、
この1試合だけでPAPは68万を超えた。
有銘がPAPでプラスを記録したのは先発12試合中
次の9月1日に投げた116球(4.2回)の+4096だけなので
たった2試合、
実質的には1試合だけで
2006年のランキング2位に躍り出てしまったのだ。

一方で
ただ完投数が多いだけではPAP過多に直結しないのも
この指標の特徴である。
つい最近の例だと
2020年の大野雄大
20先発中10完投を記録し
100球未満は3試合しかなかったが、
120球超も計4試合で最多は7月31日の128球。
2020年の試合数の少なさもあいまって
PAPは10万すら切る結果となった。
球数を使わない省エネ投球が可能なら
こういうことも起こりうるわけだ。
プロ野球の先発の「酷使」が批判されるときは
だいたい完投数かPAPのどちらかが
用いられることが多いのだが、
どちらも用いる場合は
常に完投の際の球数を意識していないと
主張の根拠に矛盾が生じる
のである。

 

NPBのPAPランキング

2023年最新ランキング

ベイスターズに来日したトレバー・バウアーについては
別に取り上げているのでそちらをご覧ください。

PAP2023

トップは2年連続で戸郷。
40万を超えた選手が出たのは
2018年の則本昂大以来5年ぶりとなる。
なおジャイアンツの他の120球以上は
赤星優志の127球と山﨑伊織の120球が1度ずつ。
明らかに戸郷だけがこのような起用になっているため、
チーム事情以外にも
データ等何らかの根拠があっての起用とも考えられる。

沢村賞の山本は
大半が100球以上だが120球超はたった1回。
そのためこのPAPの計算式上では
かなり抑えられた数字にとどまっている。
山本の下に出したのは
先発から中4日で再び先発した選手と
中5日の回数が4回以上だった選手。
バウアー以外の外国人選手で中5日が複数回あったのは
同じベイスターズガゼルマン(3回)だけである。
また
山本と山崎福、伊藤と鈴木に加藤、
今永とバウアー、東のように
同じチーム内で
各選手の個性、傾向などによって
登板間隔と球数に明確な違いが設けられているケースが
いくつも見られる。
実際にある程度球数を投げている戸郷や
各選手の個性を見て起用法を変えている
こうした首脳陣には見向きもせず、
全選手一律での中4日や完投を主張する
沢村賞選考委員のほうが
各チームよりもよほど杓子定規に思える。

なお2021、22年に連続で
「危険域」とされる10万を超えたのは
今井達也、柳裕也、上沢直之、山本由伸の4人だが、
故障を抱えたという選手は特に見当たらず
このうち2人がMLB挑戦を表明している。

 

2006~2010年

2006-10PAPランキング

5年間で最も多い2009年涌井は
完投が多いだけじゃなく
6回で121球、7回156球といった試合もあり
球数を元々消費するタイプであることも
この数字につながった。
さすがにまずかったのではと思われるのが2006年一場。
創設2年目でエースの岩隈久志が離脱したこともあり、
投手がことごとく足りなかったこの年の楽天
一場、グリンらを中心とした中5日主体のローテを組んだ。
ローテ定着後の有銘も先発は8試合だが
この登板間隔となっており、
先述の188球も中5日でのもの*1だ。
そんな中で一場は
基本的に120球以上、
最高で168球*2を記録している。

 

2011~2015年

2011-15PAPランキング

2011年からは明らかにPAPの数値が減少。
2011年に激変したということは
統一球導入による
リーグ全体の投打のバランスの変化が大きな要因と思われる。
2013年から上位常連になるのがメッセンジャー
メッセンジャーだけは
登板間隔が他の投手とは明らかに異質で、
同じチームの藤浪とも違う
特別なローテーションを組まれる中
毎年このような数字を記録した。
主な理由はやはり普段の球数の多さ。
6~7回で120~130球を費やしての降板も多く
無理な酷使とは言いづらい。
他の選手の中4日、中3日は
前の交代が非常に早かったため
ローテーションを崩して投げさせたケースも多い。

 

2016~2020年

2016-20PAPランキング

PAPが10万を超える選手の数がかなり減っているだけじゃなく
中5日以内での先発登板も減少傾向にある。
2010年以前も
選手やチームによっては
中5日以内の登板頻度が少ないこともあったが、
その時代は
毎試合130~140球を費やす可能性を見たうえでの登板。
一方の2020年前後は
多くても110~120球台で交代させ
前後の登板に関しても
かなり厳格に管理するように
変化している印象がある。

 

2021年

2021年でPAPが10万を超えたのは以下の6人。

2021PAPランキング

2021年のトップは今井。
130球、140球台を費やしてでも完投させる回数が激減した
現代の野球において、
この指標は
ある程度球数を要しやすく
イニングの最後まで投げることを求められる選手が
どうしても多くなりがちである。
日本シリーズ第6戦で141球を投げた山本は
レギュラーシーズンだと
このイニング数と球数でこの程度の数字。
ほぼ全試合で100球は超えたものの
120球以上は8回、
最多は8月20日の126球だった。
なおこの6人のうち
中5日での先発は今井、柳、高橋、松本が3回で山本が2回。
PAPの基本条件である中4日以内での先発登板
一度もなかった

2022年

2022PAPランキング

2022年に10万を超えたのは10人で
2021年の2倍いるが、
20万超は戸郷1人だけ。
2006年以降というか
おそらくNPB史上最少の人数と思われる。
このうち今井は
先発した9試合が全て100球超。
120球超えも4回あり最高は144球なのだが、
144球完投した試合以外では
7イニング目に入ったのも2試合だけで、
打者1人1人に球数を費やすタイプであることが
この数字につながっている。
また144球投げた後は
約一ヶ月一軍で投げていない。

PAPの前提条件である
中4日での先発は
レギュラーシーズン中たったの3回。
他にリリーフ登板からの中4日が6回、
オープナー、ショートスターターの中3日以内は7回、
そのうち先発予定の登板回避で
リリーフが急遽マウンドに上がったケースが2回あるが、
先発から中4日で再び先発したのは
4月10日の上沢、6月12日の加藤貴之、
6月26日の戸郷のみで、
ここに日本シリーズ第7戦の宮城大弥が加わる。

2022中4日

戸郷は打ちこまれたが
上沢、加藤、宮城は無失点に抑えた。
中4日となった試合とその前の試合では
4人とも100球を超えておらず、
上沢と加藤は
その前の試合での球数をかなりセーブしたうえでの
中4日登板となっている。
戸郷と宮城は
アンドリース、山本の故障が
中4日を選択した大きな理由の一つと考えられる。
6月12日の加藤は交流戦終戦
21日の戸郷と22日の加藤は
交流戦明け初登板。
中5日での先発は
10回前後行ったのが7チームに
5回未満が5チームと対応が分かれた。
ホークスの14回が最多で
そのうちレイが5回、
11連戦での中5日も1回。
逆にライオンズは一度もなく
先発登板限定だとスワローズも0回*3だ。

2022PAPチーム別

チーム別で見ると
スワローズとイーグルスがかなり少なく、
戸郷、柳が上位に入っている
ジャイアンツとドラゴンズが多めである。

2022チーム別SP球数

100球以上*4の試合が過半数に達するのは
バファローズのみ。
昔に比べれば激減しているものの、
中4日と中5日が主流のMLBに比べれば
中6日以上が基本の日本では
先発が100球以上投げるケースはかなり多い。
以前のような中3日・中4日完投から
中4日100球か中6日完投の二択に主張を軌道修正した
沢村賞選考委員の方々は
少しは安心していい。

*1:188球の次は中6日

*2:7.1回、9回125球から中4日

*3:中4日の3チームではファイターズ8回、バファローズ8回、ジャイアンツ4回

*4:100球ちょうどをカウントしないPAPの算出方法と異なるが、参照先との比較のために100球以上とした