スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

「FA補償にドラフト指名権譲渡」は本当に唯一の正解か

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今回は
オフシーズンにFA移籍選手が出るとどこかで必ず主張される
FA選手獲得とドラフト指名権譲渡について考えよう。

 

 

指名権で必ず忘れられる話

FAの人的補償に代わる案について見ていくと
圧倒的に多いのは
MLBでも用いられているドラフト指名権の譲渡だ。
しかしこのドラフト指名権譲渡が主張される際に
必ずと言っていいほど忘れられてしまう点がある。
何だかおわかりだろうか。

金だ。
これは少し考えると異常な話と言える。
FAを行使して移籍した選手は「金の亡者」と罵られ
獲得したチームは必ず「金の力を用いた強奪」と叩かれ
改革が叫ばれている人的補償
「金銭+選手または金銭」と決まっているのに、
いざドラフト指名権の話が出た瞬間、
金銭のことは全ての人の頭の中から消え去ってしまうのだ。

ドラフト指名権を受け取った代償

ここで気になるのは
一般的に反対するだろうと思われているFA獲得チームよりもむしろ
FAで選手が流出したチームのほうである。
ポイントは選手の契約金だ。
ドラフト指名選手の年俸に関しては
昨年から上限が少し引き上げられているので、
昨年と今年のドラフト指名選手の契約金・年俸額の平均を
案として出されることの多い1位から3位まで見てみよう。
単位は万。出来高等は除いている。

2019-20契約金1位

大学生・社会人の1位は
外れ1位までなら全チーム共通で満額かそれに近い金額になっている。
高校生はチーム内の位置づけによってばらつきが大きい。

2019-20契約金2位


2019-20契約金3位

これまで高校生野手の3位はやや特殊で
2013~18年は
淺間大基、石垣雅海、林晃汰以外の10人が全て同額*1だったのだが
ここ2年間はまたチームによって差が出るようになった。
全体的には相場の平均よりかなり安いことが多いのは日本ハム
高校生だと広島も安い印象がある。
また今オフに契約更改で問題視された中日は
即戦力か長期育成かでの金額の開きが特に大きいチーム*2と言える。

 

指名権譲渡そのものの問題点

指名権譲渡の問題点は
FA流出チームが
この指名にかかる契約金・年俸の支払いを強制されることだ。
特に1位指名権だと外国人選手を入れて上位87(1チーム平均7.25)人、
最低額でも127(平均10.58)位に入る金額を払うのは
いくらチームの将来を買うと言ってもなかなかの出費である。
下位指名に費やす予定だった枠が上位指名に流れると仮定しても
やはり数千万円の出費増にはなる。
現在の人的補償と同じように金銭との選択制にする、
指名権トレードを可能にする、
といった制度も導入するならまだいいだろうが
指名を強制されるとなるとこれはこれで問題だろう。
だからといって
譲渡した指名権の契約金を譲渡したチームに全額負担させるのでは
いくらなんでも出費が多くなりすぎ、
FA選手を獲得するチーム自体が無くなる危険もある。
「だからFAそのものをなくせばいい」と言う人もいるが
こう主張する人に限ってだいたい
メジャーリーグには自由に行かせろ」とも主張するので
この意見は全く信用に値しない。

 

「ドラフト指名権」から垣間見える「日本球界」の問題点

ここであげた「ドラフト指名権譲渡」のデメリットに関しては、
あたかも
「メリットしかない完全無欠の案」と語られている指名権譲渡に
選手を失ったチームにもデメリットが存在し得るということ
さえ理解してもらえればいい。
こうしたデメリットも踏まえたうえで
ドラフト指名権譲渡を主張しているのなら問題ないのだ。

しかし最初に書いたように
ドラフトに話が移ると
金銭的な話題は一切消え去ってしまう。
指名権譲渡に限らずドラフト絡みで金の話題が出てくるのは
かつての栄養費や裏金の話ぐらいで
通常の指名選手の契約金や年俸は全く話にされない。
それどころか
三軍制、育成枠その他あらゆる形態の選手枠増大に関しても
「選手枠さえ拡大させれば
たとえどんな悪条件だろうと選手はプロ入りしたいはずだ」、
「活躍するかわからない新人に高い契約金が支払われるのはおかしい」、
球団側に対しては
「各球団は野球選手をいくらでも保有する*3ことができるはずだ」、
こうした意識が透けて見える主張が目立つ。
中日や昨年の広島など自分たちが嫌っているチーム*4が行う
若手に対する減俸や「不十分な」増俸には
所得税が大変だ」「かわいそう」などと叩くが、
23歳以上の選手への大減俸に対して
「当然だ」「生ぬるい。もっと減らせ」「さっさとクビにしろ」と
言い出すのはだいたい同じ人たちである。
見出しで「日本球界」とわざわざかぎ括弧をつけたのは
NPBの各チームや首脳陣、選手などに対する話ではないから。
日本の野球ファンやスポーツライター*5
「選手第一」「野球人気の復活」を標榜しながらその実
たかが選手*6」「たかが野球が*7」と
考えているとしか思えない主張が多すぎる。
どこぞのソ連兵よろしく
「選手は田んぼから採れる物」ではないのだ。

*1:契約金5000、年俸600。2008~12年はこれよりずっと安い選手が大半

*2:2位大学生投手の最多は2人とも中日。逆に土田龍空は上野に次いで安く林と同額

*3:「雇う」ではない

*4:昨年の広島の場合は単に小園海斗を聖域にしなかったため

*5:日本特有なのかアメリカの各スポーツやヨーロッパサッカーなどにも大勢いるのかはわからない

*6:当然ながら渡辺恒雄のことは常に叩いている

*7:スポーツ全般、エンターテイメント全般などにもそのまま当てはまる