スポーツのあなぐら

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故・星野仙一氏のドラフト戦略

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先日、中日、阪神楽天の監督、SD、副社長等を歴任された星野仙一氏が亡くなられた。
心からお悔やみを申し上げます。

ところで、中日のエースや「闘将」として有名な星野氏だが、
一方で彼は中日監督時代からもチーム編成などに手腕を発揮してきた
フロントマンでもあった。
ただ、そんな星野氏の戦略、特にドラフト戦略については
今後何かしらの形で実際の星野氏がとった戦略とは異なる
識者にとって都合のいい戦略が星野戦略としてクローズアップされる可能性がある。
では実際の星野氏のドラフト戦略がどのようなものだったのか簡単に見ていこう。

1位入札

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(太字が星野期、赤字は抽選当たり、青字は一番人気)
中日での1位入札は競合と単独指名・逆指名を織り交ぜ、これといった極端な特徴はない。
星野時代の前後を見ると、
当時の中日は毎年のように一番人気の選手に向かい、
また逆指名時代には1位で高校生を指名したがる傾向があった
(1位での逆指名・自由枠は97、98、2004年だけ)。
第一期の今中、与田単独指名、第二期の川上、福留逆指名がむしろ異彩を放っている。
ちなみに中日の傾向に関しては落合時代を経た今もあまり変わっておらず、
2008年以降も菊池雄星、高橋周平、松井裕樹高橋純平、中村奨成と
2年に1回は高校生を1位入札している。
くじを外した4回のうち外れで高校生を指名しなかったのも去年だけだ。

阪神では2002~04の大社目玉選手の存在や分離ドラフトの影響もあってか
高校生の1位指名はあまり見られなかったが、
楽天では再び高校生の1位指名が増えている。
星野氏の好みも少なからずあるとは思うが、
基本的な人選はある程度スカウトに任せ、肝心な交渉で自らの人脈を活用する
タイプのフロントマンだったのかもしれない。

ここからはドラフト評論の中でも特に勝手なイメージを作られやすい
高校生と野手の指名について見ていく。

中日第一期(1987~90)

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(赤字が星野時代、ドラフト外含む)
星野時代一期の中日は、まず他のチームに比べて投手指名率が高い。
ただしこれはその前の時期からの傾向でもある。
ナゴヤ球場の特性などからチームが打撃優位になりやすく、
投手難に陥りやすいチーム事情からくるものと考えられる。
選手獲得数も巨人に次いで多いのでその多めの選手数を投手にあてていたともとれる。

星野監督になってからの目立った特徴としては、
「上位で高校生、3位以下で大学・社会人を獲る」ということだろう。
その証拠に、他のセリーグは上位で即戦力、下位で高校生という傾向が強いのに対し、
中日はそれまでの「上位・下位ともに高校生」から変化しているのだ。
まだまだ日本球界全体が高校生偏重時代なので
まだ下位指名でも高校生率は5割を超えているが、
無視できない変化だ。

この下位で大学・社会人を重視する戦略はその後の中日にも受け継がれたようだ。
91~95年は上位でも即戦力重視になってはいるが、
これは松井、紀田を外した後に大社投手を指名したことも影響している。

中日第二期(1996~2000)

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第二期も、やはり投手多め、
上位で高校生、中位以下で即戦力という傾向は変わらない。
逆指名自体は積極的に狙いに行っていたとは思われるが、
どうしても欲しい選手がいなくなれば上位は高校生でギャンブルをし、
下位では戦力そのものを増やすことに尽力していたと言えるだろう。

ただ当時の編成やスカウト陣はこの路線に不満がたまっていたのだろうか、
その後の3年間が極端な野手重視になっているのは笑ってしまう。
既に投高打低かつベテラン偏重のチームになりかけていたのもあるだろうが、
それにしては高校生野手が7人(他のセリーグは4人以下)と多すぎ、
明らかに悠長だ。

中日とは関係ないがこの時期の他のチームの数字について補足しておくと、
ヤクルトは95~98年までが高校生偏重、
逆に阪神は99年以降が指名数(分母)増+大社偏重路線のためこのような比率になった。
両チームともそれ以外の時期の高校生:大社はバランス型である。
それにしても、大社多めの3チームはこの後浮き沈みあれど一定の力を見せていく反面、
高校生偏重の3チームは戦力が低下、
特に広島と横浜は完全な暗黒期に突入していく。
何だか資金力とドラフト戦略の成果の差をまざまざと見せつけられているかのようだ。

阪神楽天

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ここは簡単に。
阪神では中日で見られたような星野氏らしさというのはあまり感じられないが、
分離の3年間の存在に加えて、他の5年間は実際には高校生が比較的外れに近い年。
統一ドラフト5年のうち2008年以外は1位指名以外の高校生に当たりがほとんどいないので、
結果としては間違いではなかったと思われる。
楽天では高校生:大社では中日での星野氏らしさが見られる一方で、
3位以下で野手を確保していく戦略が目立つようになる。
このあたりは中日時代とのチーム事情、他チームの戦略の違いだろうか。
阪神時代でも3位以下では野手をしっかり確保している。

まとめ

以上から見える星野仙一氏のドラフト戦略としては、
上位指名は確実に即戦力を獲れない場合は高校生等で大物のギャンブル狙い、
3位以下では上位選手失敗の可能性と単純な戦力増加を目的とした大学生・社会人重視、
というものであることがわかる。
こうしてギャンブルと堅実さを兼ね備えたドラフトで整えた戦力に、
外国人、最近はそこまで多用してはいないがトレードやFAを組み合わせていく、
というのが全体としての戦略なのだろう。
資金力等の関係で常時優勝にまい進するのはやや難しいが、
チームを概ねAクラス(2~3位)以上にまとめ、
チーム事情がかみ合えば当然優勝も狙える構成と言える。
ただドラフト評論の世界では「上位で高校生多め」という一点をもとに
「上位・下位問わず高校生偏重が星野氏の戦略。他のチームも見習え」
とされかねないため、このようなネタを書いておいた。